職場に出入りしている研究員のおじさん、かなり地位は高いのに研究現場が大好きで、ただの下っ端である僕達にもにこにこと話しかけてくる。実験も好きだが、研究活動も大好きなので、話を聞いていても退屈しない。難しい話でも、“伝わる”ものがある。理系の研究者らしくちょっと浮き世離れした、話好きなところがあるが、それも突き詰めると人徳となるのだな、と感心してしまう。
浮き世離れというと、この人はまた別格なのだ。
企業の研究員は「楽しい仕事」として続けるが、四国の実家に帰れば資産がたっぷりあって生活には苦労しないし、東京にマンションもあるけれど住むつもりはなくて宿代わり、といった、「なるほど、羨ましいですね」としか言いようのない人。元華族の家柄。
サイゼリヤでイタリアンのフルコースを(あのメニューをじっくり眺めて)組み立てた、という伝説が残っている。「パスタとサラダだけとか、なんかイタリア料理っぽくないからね」と本人は笑っていた。なんというか、育ちが良くて、そういう言葉も嫌味にならない。
そんな人から、今日は「とっておきの楽しい食べ物」を教わってしまった。
出張の時に「開発」した、とのこと。
まず「フレーヴァーのついたピーナッツ」を1袋購入する。これは「ハニーローステッド・ピーナッツ」などの、味付けのされたもの、を指す。クレイジーソルト味や、塩レモン味など、今はいろんな種類がある。缶だと、なお良し。
それとは別に、普通のバターピーナッツも買う。これは100円の小袋で十分、とのこと。
それを混ぜてしまう。
缶の場合は少し食べてから、袋入りは、たいてい容量に余裕があるから、溢れることは少ない。粒の大きさが揃っていれば、それほど振らなくとも、2種類のピーナツは均一に混ざる。
「これが旨い」とのこと。
味に「工業製品らしからぬムラ」が生じる、そしてナッツ自体の味にも変化がある(品種や産地が違う)、そしておつまみとして濃いめの味付けだったものが「ほんの少しだけ物足りなくなる」ことが、その良さの要因だ、と言っていた。
「それに、低コストで増量できる」とも。
なんだか面白そうなので、今日は仕事のあとにコンビニエンスストアに寄って、試してみた。「ハニーローステッド・ピーナッツ」の青い缶と、プライベートブランドのバターピーナッツの組み合わせ。
もとより慣れていないせいか、ぴんとこない。が、確かに美味しい気がする。
ムラ云々よりも、蜂蜜味の甘塩っぱいピーナッツと、バターの塩気があるバターピーナッツは、キャラメルとチーズのポップコーンみたいな相乗効果があって、悪くない。
なんだか身体に悪そうな味でもある。
しかし、1回でそれほどたくさん食べるものでもないから、これからしばらくはピーナッツ摂取が習慣になるだろう。
ともあれ、ある種の人の言葉には、魔法がかかっている。
思わず影響されて買ってしまう、という魔法。美味しそうに感じてしまう、という魔法。これ、友人やTVのお笑い芸人が「めっちゃ美味しいから、絶対試してみて!」って言っていても、夕方には忘れていただろう。ユーロ安と金属結晶の話をした後に聞いた話だからこそ、あのおっさんの話だからこそ、なのだ。