犬の映画、猫の映画。つまり『ガルム・ウォーズ』と『世界から猫が消えたなら』。

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うっかり映画を2本、観てしまった。

全くの偶然で、人とともに生きる獣、犬の映画と猫の映画だった。どちらも死を描き、生を浮き彫りにする。死んでも記憶を受け継いでいく「ガルム」達の闘争と、死が決定した青年が得る結末。なんとなく対になっていて、こういうのも面白い体験だと思う。

感想は以下の通り。例によって「Filmarks」からの転載。ちょっと修正してある。

『ガルム・ウォーズ』

犬の世界認識には、過去も未来も無く、現在だけが存在しているのだという。記憶はあるし、もちろん先だって見越して行動する知恵もある。でも過去があって今が、そしてその先に未来がある、そんな自意識・物語は彼らには必要無い。
確かに、かつて我が家にいた犬も、そんな感じだった。そうでなければ、異種たるヒトと暮らせない。我々だって、犬を家族に迎えただろうか。

この作品は、犬に満ちている。
犬のような存在と、犬に擬した何か、犬そのもの。つまり、過去も未来もなく、現在だけを懸命に生きる存在の、神話じみた物語。ヒトと出会い、役割を得て犬となった生物が、いつしか自分達の生きる意味、自分達の物語を歩み始める。多くの喪失が、3章立てのコンパクトなストーリーに散りばめられている。


押井守ファンが待ち望んでいたであろう作品。少なくとも、僕は待っていた。
ようやく彼の妄想を、過不足なく映像にできる時代になったのか、と感慨深い。犬、鳥、ミリタリー、ケルト風味のスチームパンク、単色使いの情報表示。まるで作り物じみた世界だが、それもまた押井ワールド。全てに意図を行き渡らせた、アニメでも実写でもない映画だった。
不親切極まりない、と言う人も多いかもしれない。世界観も用語も、公式サイトで“予習”が必要な感じ。自分はずいぶん前に小説(ストーリーは違うが世界設定は同じ)を読んでいたから混乱しなかったけれど。まあ、「押井守で犬の映画」とわかっていれば、映画の進行に併せて理解できるとは思う。そのほうが楽しいかもしれない。

やりたいことを詰め込んだ、という意味では「イノセンス」に通じるものがある。あの作品で「押井監督、趣味が全開で映画としては楽しめなかったです」という人でも、この映画では大丈夫ではないか。この辺り、円熟の技かプロデューサー達の豪腕か、よくわからないけれど。
望むべくは、吹き替えではなく字幕で観たかった。さっぱりわけのわからない(東欧あたりの)言葉に、日本語字幕だったら雰囲気が良いのではないか。どうだろう。


犬好きな人、特に犬と暮らしている人には、特にお薦めできる。今だけを懸命に生き、大抵は人よりも早く世を去る、そんな愛おしい存在が、この寓話のような神話のような、誰も見たことのない世界において、また違った生き方を見いだすのだから。
そんな姿は当然ながら、人の生きる姿をも写し出す。 人と寄り添えば、それは人の一部なのだから。

 

 

 

世界から猫が消えたなら

死んだらどうなるか、を真剣に怖がったのは何歳の頃までだっただろうか。いわゆる「あの世」を想定できなかった僕は、死んだ瞬間に世界が終わる(観測者が不在になるため)と気付いた時に、途方も無く不安になったことを覚えている。まあ、すぐに「自分が死んで世界が終わるのも、世界が残るのも等価だ」とまで考えが至り、その心細さには決着がついたのだが。この映画では、すぐに世を去ることが決定している青年の、その最後の数日間(?)が描かれている。
いわゆる「走馬燈映画(造語)」と言っていいだろう。
何かを得るためには何かを失う必要がある、というもっともらしい(しかし当然、根拠は無い)テーゼを下敷きに、1日の寿命を得るために、大切な何かを1つずつ失っていく。
その失うもの自体は、生命活動に影響は無いものばかり。が、彼の人生と、周囲の人達を繋ぐ、かけがえのない存在がまるごと消えてしまうのだ。彼は人生を1日伸ばすことで、その大切だった諸々を思い返すことになる。手に負えない喪失感とともに。この「世界から何かが消える」シーン、世界が改変されるシーンが、どれもこれも、びっくりするくらいに安っぽい。はじめは本気でがっかりしたけれど、最後まで鑑賞したら、その荒唐無稽さも有りなのかな、と思えてきた。
別に「消えたならどうなるか」の思考実験がテーマではないから、その「○○が消えた」時の影響の適当さも気にならない。いや、アレが消えたら人類社会が激変するんじゃないの、とか言い出したら“負け”だ。
主人公が人生の最後に何を見いだすのか。生きる意味か、生きた意義か。とても優しい「世界へのお別れ」が、この映画の見どころかもしれない。色んな演出にもう少しだけ慎みがあれば、とても綺麗な名作になっていたと思う。が、爽やかで軽みがある素敵な作品でした。映画館で楽しめて良かった。

 

 

実は原作本は買ったものの読んでいなくて(表紙買い)、そのまま人にあげてしまった。その本をあげた人と一緒に観たので、感想にちょっと差異があって、それもまた楽しかった。たぶん、原作を読んでおいたほうが、変な期待や勘ぐりをせずに済む、そんな気がする。
ちなみに文庫本も買ったが、旅先で宿に寄付してきた。こうしてようやく「世界から猫が消えたなら」の物語に触れることができた、それが個人的な収穫ではある。文庫本は、また買うつもり。

 

 

世界から猫が消えたなら (小学館文庫)

世界から猫が消えたなら (小学館文庫)

 
世界から猫が消えたなら (小学館ジュニア文庫)

世界から猫が消えたなら (小学館ジュニア文庫)

 

 

 

ちなみに『ガルム・ウォーズ』は僕を含めて観客は4名。古い言葉「文化の果て:Shi-Zuokk-a」に漢字を当てたのが「静岡」の由来だとはいうものの、いくらなんでもこれはちょっと、と思えてしまう。だって押井守監督ですよ。いくら「高額なC級映画」でも、でもちょっと寂しい。

世界から猫が消えたなら』は、冒頭の自転車転倒シーンが無茶苦茶で、あれは何の意図だったのだろうと今も不思議に思っている。演出上の“フック”にしては陳腐なのだ。これ、誰かと語り合いたい。
隣の高校生集団は、開始直後からグミやラムネを食べまくって、中盤は寝て、最後のほうの「涙腺崩壊シーン」だけ観て、「めっちゃ泣けたー」と騒いでいた。最後まで寝ていれば良かったのに。

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映画とは全く関係無く、今日は今年度初のかき氷を食べた。
新静岡駅近くの甘味処で「小豆氷」と、温かい緑茶。とびきり美味しい小豆餡。

映画2本と小豆氷。良い土曜日だった。

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