今回の「瀬戸内国際芸術祭2016 春」で、いちばん良かった場所・展示は何だったか。
人に聞かれたら「愚問なり!それぞれ良さがあり、優劣などつけられぬわ!」と思う(けれど、言わない)のだが、誰も聞いてくれないので、ここに書く。*1
といっても、いちばん、つまり突出したナンバーワンは、無い。
やはりそれぞれに良さがある。
建物としては、直島の地中美術館が「最高!」だった。
はじめは「安藤くん、さすがだなあ。お金と工夫が漲ってるなあ」くらいの気持ちだったのだが、ああいうコンクリートのぱきっとした建物と自然の組み合わせは大好きな雰囲気であり、館内を歩いているうちに、さらに好きになっていったのだ。
明確な案内表示は無いし、適当に歩いていたらカフェコーナーに到着してしまったし、坂や階段も多いけれど、とにかく楽しい。特別な場所にいる、という気分がすごかった。
構造を把握してしまえば、あとはそれぞれの展示室を巡るだけ。
展示では、「モネの睡蓮の部屋」が、自分でもびっくりするほど感動した。
モネの睡蓮、いつかどこかで見た記憶がある。なるほど、たいしたものだ、程度の感慨しか無かった。混雑していたし、どちらかといえば「見物」みたいな気分だったと思う。
この地中美術館の作品は、部屋からして違う。
スリッパに履き替えて入った場所は、自然光が導かれたオフホワイトの静謐な空間。その3面に、それぞれモネの作品がある。かなり広く、視界いっぱいに楽しむこともできれば、引いた視点で眺めることもできる。
この自然光の件は知っていた。でも、こんなに違うものとは思わなかった。
こういう「名作」で、がつんと心を掴まれたのは、もしかして生まれて初めてだったかもしれない。延々と眺め続け、少し後でまた入室した。それくらいに気に入ってしまった。
「ウォルター・デ・マリア」の部屋は、「とにかく静謐を心がけよ」と口頭で説明されてから、数人ずつの入室となる。
広い空間に、巨大な石の球体が据えられ、金箔を貼った直方体のオブジェが壁に配されている。
はじめは「ひそひそ話のできない関西のおばちゃん達」が一緒だったが、彼女らが注意を受け(美術館スタッフが注意→聞かない→外国人旅行者が(独語で)注意→黙る)静かになってからは、本当に空気が張り詰めて、すうっと息が止まるような緊張を感じた。
なんだなんだこれは、と驚きつつその室内を歩き回って、存分にその非日常を味わってから退室。どっと疲れたけれど、すごく涼しい部屋で汗が引いたような心地よさもあった。
「ジェームズ・タレル」は、僕のイメージする「現代美術」っぽさがすごい。
上手く説明できないが、あのような部屋と光景は、普通に暮らしていては500年生きても巡り会えないだろう。これを人間が考えたのだから、すごい。
なんだかすごいすごいと連発しているようだが、とにかく地中美術館は良かった。
地球最後の日には、ここで過ごしてもいいなあ、と思ったくらい。
カフェの食べ物が凡庸極まりなかったのが残念。
レモンティーはレモングラス入りのティーパックを紙コップにそのまま、アイスクリームにはかぼちゃのクッキーが添えてあるだけ。あれはミスチョイスだったと反省している。
せっかくだからオリーブサイダーでも飲めば良かった。きっと厨房施設に制限があるのだろう。
地球最後の日には、美味しいものをどっさり鞄に詰めて行く、そう決めた。
それぞれ滞在した場所ごとに違いがあって、島や町については本当に優劣つけがたい。しいて言えば直島の本村は、特に夜は、あんなに静かで暗い港町は人生初で、とても印象に残っている。
豊島のからっとした家や土や緑の風景も好きだ。
小豆島は、狭くて迷路みたいな町と、町と町を結ぶなだらかな道とオリーブが素晴らしかった。観光地なのに落ち着いて、でも明るいところも素敵だと思う。
そんな島から海に目を向けると、遠くにも近くにも島が連なっている。これも珍しい風景で、どこに行っても、つい魅入ってしまう。カメラが上手になりたいなあ、などと欲が出る風景。それが今回の旅の、映像的な印象だ。
*1:知人友人の皆さんは、どうか聞いてください。面倒くさい奴だと思うかもしれないが、矛盾を抱えつつ生きるのが人間です。