ブードゥーサイエンス・ヘアサロン

医者が患者に説明する際に、「強い薬・弱い薬」といった言い方をしたら、それは知識不足の患者側に合わせた、「端折った言葉」なので、その説明のなかの限られた領域のみ通用する「強さ・弱さ」だと心得ておかなければならない。
その解説で理解した気になって、他人に「あれは強い薬だから」なんて専門家でもないのに語る人間は、脳天気か無責任か、あるいはその両方だろう。


さて、美容師さんもまた「強いカラーリング剤」とか「浸透力が〜」等といった、「わかりやすい言葉」を、よく使う。
少なくとも今日行った美容院では、その種の解説が好きなスタッフが担当だった。
こういう話は、8割以上が「ウチで扱っているもの」をお薦めする時の言葉で、2割がカット中の雑談(多くは健康に関するもの)。
これはもう、素人が専門用語っぽい何かを使って、箔を付けているのだと判断して間違いないと思う。本人達にそういう意識が無いにしても、彼ら自身がその言葉の根拠まで辿ろうとしないのだから、やはり態度としては、誠実さに欠ける。
「ドラッグストアで売っているヘアカラーは、誰が使っても染まるように”強い”薬が使われている、サロン用”弱い”ので、髪に優しい」と語るその根拠が、「だって家で染めたら指が荒れた」というのは、さすがに雑ではないか(手袋は使わなかったのだろうか)。「家庭用のヘアカラーを使い続けると、頭蓋骨が染まる」なんて話は、どこにその資料がある?

とりあえず「強い・弱い」に関しては、専門家が他人にものを勧めるのだから、そのモノサシの意味するところ、何を比較してどのような影響をもたらすのか、くらいは明確にしてほしい。プロフェッショナルとかアーティストと言いつつ、話す言葉はファッション誌の(読み飛ばすくらいが適切な)豆知識では、ずいぶん格好悪いし、客を馬鹿にしていると思うのだ。客が馬鹿でも、やはり馬鹿にしてはいけない。それはある意味、詐欺に近い。

 

いや、美容師が生理学や化学をみっちり(医師や薬剤師のように)学んでいるのなら、そこまで厳しくは言わないのだけれど。
訓練として知識を積み上げた先に生まれる「肌感覚」としては、美容師のそれはいささか頼りないというのが、僕の現在の評価。
美容師間に伝わる、ある種のブードゥーサイエンスというかフォークロアというか、要は疑似科学が苦手で、つい髪を整えるのがおっくうになってしまう時すらある。
骨盤の歪みで諸々を説明しちゃう整体院と似たタイプの、「嫌な空気」が、美容院にはある。
困ったことである。
困りつつも、髪は染めた。なにしろ白髪が目立つので。でも誰も気づいてくれない。

 

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