教養と羊羹

ちょっと曖昧な書き方になってしまうが、いま職場でいちばんお世話になっている同僚が、わりと危うい。
前向きで元気で、迷わず目標に進む、立派な人ではある。典型的な田舎のヤンキー気質で、そのまま早くに成熟して、でもまだ若さを楽しんでいる。有能な人、といっていいと思う。

でもこの人、その迷わないところが、マイナスに働くことが多々ある。現在がその状態で、大変な状況から抜け出せないでいる。それでも力があるから無理ができているけれど、やはり傍でみていると怖い。ストレスなどで、いつか身体を壊すのではないか。

 

こういう人は、昔から何人も出会ってきた。
共通するのは、自己啓発本や、「スヌーピーの名言集」みたいな本が好きなところ。
別にそれでも全然かまわない。個人の自由で、納得したり心に刻めば、それでいいとは思う。しかしこの種の本は(特に自分で選び買う人は)、おおむね8割以上は、自身の補強にしかなっていない、ように見える。世界観を広げるというよりも、自説と信条を強めるための読書体験、なのではないか。

そして、彼ら彼女らは、世界観が狭い。そういうときつい言い方になるが、要は好みがはっきりしているのだ。自分が苦手なもの、興味の無いものは「自分はそういうの駄目なタイプなので」と、手に取らないし目を通さない。自分のモノサシをしっかり持っている、と言ってもいいかもしれない。

世界観が狭いと、悩まない。悩む余地がない。
つまり誰かが「それは、こういう見方もあるよ」と助言しても、自身がそう見えないのならば、その案は検討しない。「自分にはそうは考えられない」と、明確に拒絶する。
強さともいえるが、困った事態に直面した際に、悩む能力に欠けていると(その際、本人は悩んでいると思っていたとしても)、運が悪いと決定的な悲劇に陥る。

 

これは端的に言うと、「教養」の問題だと思っている。
大人の教養、少なくとも読書に関しては、ある程度の乱読が必要というのが僕の持論だ。書店の在庫を片っ端から読む必要は無いにしろ、例えばジャンルで、あるいは作家つながり、正反対の雰囲気の表紙、いかにも苦手そうなタイトル、なんでもいいけれど、とにかく自分の好みとは少し違うものを読んでこそ、身につくものがある。真に新しい発見はそこにあり、それが世界観を広げる、あるいは想像力の糧となる。
そうでない読書は、それが自己啓発だろうが偉人の言葉であろうが、「娯楽」に属する。娯楽もまたとても大切なものだが、でもそれだけでは自己を肥大化させるばかり。

多くの研究者は、自説を補強しつつ、他人の説もきちんと検討し、また他の分野にも興味を持つ。あれは教養の賜だろう。

 

僕達は、役に立つ情報とそうでない情報を正確に見分けることができない。少なくとも書籍については、間違いなくそうだ。だとしたら、ある程度は「好きな本」を、そしてたまには意識して少しだけ自らの好みから外れたものを選ぶことが、バランスの取れた個人的情報資産管理といえるのではないだろうか。家計を分散して運用するように、美味しくない付け合わせが料理に必要とされるように、脳に放り込む情報もまた、多様性が必要なのだ。はじめは無理かもしれない、でもこれは意識して訓練のように続けると、きちんと可能になる種類の物事だと思う。

ものを知らなければ、悩むことさえもできなくなってしまう。
教養はそのための力だ。これは幸せかどうかという話ではない。ただ、死ぬまで好きな物語だけを摂取して元気に生きられるほど、世界は優しくないと、僕は自らの人生で学んだ。

 

ところで今日は、清水銘菓の「追分羊かん」を食べた。いただきものを、職場の人達で分け合ったのだ。
僕はもともと大好きなお菓子。羊羹部門では日本一、蒸し羊羹部門では既知宇宙で一番の品だと思っている。それが今回、職場では実に評判が良かった。
素直に嬉しい。ただ、安いものではないから(一般的なお土産菓子の価格)明日から気軽に「休憩時間のおやつ」として持参するわけにはいかない。せいぜい、自分用に買って、自宅で楽しむにとどめる。
追分羊かん、僕の実家と親類周辺では、割と当たり前に食べられていたと思う。それが、少し土地が離れただけで、同じ静岡県中部なのに、今の職場の人達は、ほとんど食べたことがない、という。名前だけ知っている、という人も数人いた。

【春華堂】うなぎパイ VSOP (5本入)


まあ、僕だってうなぎパイは滅多に食べないが、あれは浜松市では家庭の味である。
男衆がウナギを捕まえ、エキスを絞り出す。それを女衆が総出でパイに練り込む、という風景は、今も昔も、お盆と彼岸の風物詩だ。家によって味が違うし、形だって特徴がある。
確かに手作りのうなぎパイは美味しい。素朴で、川魚の風味がして、滋養がつきそうな旨味がある。

そういう、土地の味は大切にしていきたい。清水区では追分羊かん、そして浜松市では、うなぎパイ

ただしうなぎパイのエピソードは全て嘘だ。それだけはここに書いておかねばならないだろう。では、おやすみなさい。

 

 

 

 

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