スライドショーのセンスとは

職場の、いわゆるQC活動的なものについて、資料作成と発表を任された。かなりの手抜きだが、そこは年の功、いちおう形にはなっていたと思う。
今日はその、部門内での発表会。高い評価をいただいて、次は事業所全体の発表会に、部門の代表として参加することになった。

そうなると手直しをする必要がある。
参考のため、様々な(多くの場合は地位が高い)審査員の講評を、上司を通じて集めてもらった。

 

多くの講評は、褒めてくれていた。
自分の手抜き箇所が見抜かれていた評もあった。
ひとつ、気になるものがあった。
「パワーポイントが綺麗すぎる。見栄えに時間をかけすぎ」というもの。

 

書いた人に反論はできないが、しかし的外れも甚だしい。
スライド資料というのは、一般に、短期間に少ない労力で作っても、見栄えがするものなのだ。操作に関する基礎知識と、レイアウトデザインの基礎教養、はっきりした(見栄えに対する、見る側を意識した)目的意識があるだけで、あとはマイクロソフト社のオフィス開発スタッフが上手い具合に用意してくれた機能を使えばいいのだから。

逆に、(件の指摘者を含めた、この勤め先の多くの人がそうであるように)そういう基礎を無視して、こちこちと気ままに文字の色を変えたり、虹色で影付きのワードアートをアニメーションさせたり、唐突にクリップアートを貼り付けたりしていると、いくら時間があっても足りない。

それぞれの文章は(意図を持って)整列させること、曖昧な、操作ミスなのかなんなのかわからない、微妙なオブジェクトのズレは避けること、それらの作業は目分量ではなく、ソフトの機能で実現させること、そういう心遣いさえできれば、プロっぽい「綺麗すぎるスライド」は、作れる。センスというより、これは技術の話だ。

そもそも、僕達は勤務時間中にスライドを作っているのだから、プロっぽさは非難されるいわれはない。稚拙なパワーポイントが「若手の自主活動らしくて好ましい」と思うのならば、僕はその人から評価されなくても、全然かまわない。

後は、例えば、色は必要最低限にする、とか、フォントは「MSゴシック」や「MS明朝」は避ける、といった小さな心がけが、他の発表資料との差別化には繋がると思っている。
これはもう、試行錯誤が不要の、つまりは時間をかけないで済む工夫だから、今まで多くの人に伝えてきたが、あまり取り入れてくれる人はいない。
でもMSゴシックなどは、いつも誰もが使っているから、やや凡庸な印象を与えるのは確かだと思う。大きなサイズにすると粗が目立つし、たぶん低解像度の画面表示には適しているけれど、スライドや印刷物には、やや太すぎる気がする。
ちなみに「ポップ体」は論外。よほど強い意図が無い限り、使用禁止でかまわないと考える。
色や文字飾りは、基本的に最小限にしておいたほうが、後で便利だ。強調や比較、並立といった要素を際立たせるために“取っておく”といい。いきなり多用すると素人臭いし、見る側も意図がつかめない。手間だってかかる。

というわけで、僕は前期(先輩の資料作成を手伝った)に比べて、おおよそ4分の1の時間で資料を作成した。しかもその多くの時間は、文章や数字を考えるのに費やした。
見栄え、に関しては「マテリアルデザイン」の簡素版、亜流を目指した。それがいちばん目新しく、洗練され、コンピュータで作りやすいのだから。

要は、今は世間に「お手本」があふれているのだから、そこから盗めばいい、ということなのだと思う。なぜかパソコン・書類作成分野になると、バッドデザインが許容されてしまう不思議。
アプリの画面から、Webサイトまで、それから雑誌や書籍もそうだが、みんな意図と理由を込めてデザインされている。僕達のセンスより、それは優れていることがほとんどだ。

ノンデザイナーズ・デザインブック Second Edition

この種の話で、いちばん役に立つ本は、僕にとっては「ノンデザイナーズ・デザインブック」。最近、また増補版が売り出された。
この本は、本当に良い。デザインに関わる人の常識が書いてある。デスクワークをする人が知っておくと、ずいぶん仕事の質が変わると思う。
いつになっても古びない、良書。
町内会のチラシも、この本があれば、見栄えが全然違ってくると思うのだが。
パソコンの操作法は一切書いていないが、しかしそれでも読めば役に立つ。読みやすく、そして実用的な本である。

 

ノンデザイナーズ・デザインブック [フルカラー新装増補版]

ノンデザイナーズ・デザインブック [フルカラー新装増補版]

 
ノンデザイナーズ・デザインブック

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