夕餉の時刻にたまたま近所を通った、という理由で洋食屋の『ちゃぼす』に行ってみた。
食べログか何かで知って、気になっていたお店。
確かに面白い店だった。美味い不味いを通り越した、“彼岸の店”といえるかもしれない。
今日は『ビーフカツカレー』を注文した。
普通サイズが1000円、ハーフサイズが700円だったか。一般的な胃の大きさの人は、ハーフサイズでも十分に多いという。僕はうっかり普通サイズを注文してしまったので、今かなり辛い。
まず「よくわからない惣菜盛り合わせ」がテーブルにやってくる。これはメニューには書いてない、サービスなのか『ビーフカツカレー』に含まれているのか、よくわからない存在だ。こういう「わからないもの」が、延々と登場するのが、この店の持ち味だとは、後になって気付いた。
惣菜というか、仕出し弁当の具材のようなものが、深皿にまとめてある。惣菜を水に20秒くらい浸けたあとに温めなおしたようなものや、病院食の野菜煮にドレッシングをかけたようなものまで、とにかく混沌としている。
これを食べつつ、カレーを待つ。
カレーも、かなり変わっている。
スパイス感は薄い。マイルドさを極めたうえで塩気を効かせた、という独特の味。ものすごく沢山のごはんに、このカレーがどっさりかかっている。さらに、空豆大のコロッケと、焼き野菜と、ビーフカツレツが雑然と盛りつけられている。そしてクリームシチューのような何かが、少しだけ。粗挽き胡椒も少し。
不味くはないが、それぞれの工夫が謎すぎて困ってしまう。
素人の書いた小説のように、「アイデアを全て盛り込んだ感」がある。
ああこういうのは知っているぞ、と食べながら思った。
料理が好きだが、上手ではない人の料理を、美味しくした感じがする。
世の中には、見ただけ、食べただけの料理を「ああなるほどわかった。これなら俺でも作れる」と言って、残念なものを創りだす人が存在する。我が家では父がそういう傾向にあり、例えば麻婆豆腐は「赤い≒ケチャップを入れる」と勘違いしていた。食べられないくらいに不味いわけではないし、厳しく指摘するのも悪い気がするが、こういう人はもう他人の指摘なんて気にせずに、レシピなんて調べずに、創作活動に励むのだ。
さて、この『ちゃぼす』の場合は、それぞれ単品の料理は悪くない。小さいコロッケを大量に使う理由や、天カスのマリネみたいな謎は多いが、それはそれとして食事として成立している。でもどうしてこんなに見た目が怖いのか。「外食のよろこび」みたいなものに欠けることは否めない。
ちなみに食後にはデザート盛り合わせみたいなものが供される。
これも不思議な品だった。
オレンジとグラノーラを混ぜたババロア的な何か、甘味よりも塩味が効いた粒餡を丸めて上に黄色いクリームを絞った何か、そして、チョコレートプリンだけはチョコレートプリンだった。
こういう品が、貼り紙もポエムも無い、素っ気ない洋食屋で提供されるのだ。世界は驚異に満ち満ちている。
観光地でたまたま入った店がこれだったら、たぶん凹む。というか、清里高原や軽井沢には存在しそう。
でも平日の夕食としては、それなりに楽しい体験だった。味も量も「まあ、これでいいか」と思わせてしまう魔法がかかっていた。それに安かった。
奇食や下手物では断じてない。ただちょっと変わっているだけの、そんな店なのだと思う。梅雨時の夜には相応しいのではないか。
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