フレッシュマン!

たぶん新入社員研修なのだろう、今朝からスーツ姿の若者達が何人か、職場に来ている。朝のミーティングの後に、少し挨拶というかスピーチをしていた。
僕の席からは上手く聞き取れなかったし、既に自分の作業を開始していたからよくわからないけれど、とにかく抱負や経歴などを、明るくはきはきと話していたようだ。

 

1人、ちょっと変わった青年がいた。
皆と同じような、無個性なスーツを着ていて、無難な髪型をしている。
変わっているのは、立ち姿。
足を肩幅くらいに開き、そのつま先をうつむきがちにじっと見る。片側の耳は、こちらを向いているかたちとなる。いたって真面目、おそらくは緊張している。

どこかで見たような姿だと思っていた。
午後の仕事中に、「あっジャニーズ系のアイドルだ」と気づいた。
どういうわけか、昔からジャニーズ系の人達は、待機中にはうつむき、シリアスな顔をして、床を見つめている。自分のパート、あるいは踊るべき時期になるまでは、その姿勢を維持するのだ。直立不動で待機するアイドルは想像し難い。
たぶん、それがかっこいいアイドル的な立ち方なのだろう。あまり日常ではみかけない姿勢だけれど、かっこいいアイドル的な青年自体、日常で出会うことは少ないのだから、それは当然なのかもしれない。

 

もう1人、globe時代のマーク・パンサー的に(例えが古くて申し訳ない)リラックスしている青年もいたが(ここではない遠くを見て「いいよね。この雰囲気」という感じで身体を揺らしていた)、彼はもう見るからに「駄目な新入社員」という感じで、そういう人は毎年1人くらいは必ず存在するので、あまり印象に残っていない。職場見学の途中で行方不明になるタイプだ。

そう、どれほど厳しい就職戦線であっても、どんな手法の面接や筆記試験を行っても、必ず1人は、こういう「絵に描いたような(悪い意味で)今時の若者」が混じってしまう。大抵の企業で、規模の大小にかかわらず、必ず存在する「今年の変な奴」。

日本企業の人事部門には、暗黙のセオリーみたいなものがあるのかもしれない。「少なくとも1人は駄目な若者を採用すること。多様性こそ生存競争の要である」といった考えのもとに「採用枠」が用意されている可能性について考えてしまった。
しかし僕は思うのだ。劇場版ドラえもんで、「のび太」が活躍するのは彼が主人公だからであって、例えば「出来杉君+ドラえもん」の組み合わせならば、そもそも異世界や海底王国に関わったトラブルなど、事前に回避できてしまうのではないか。そういう冷酷な世界観を持って、人事担当者は選考に挑んでほしい。

ところでリラックス・フレッシュマン氏は、どうしてリクルートスーツにハワイ土産っぽい数珠を組み合わせていたのだろう。これから通夜なのかもしれない。

 

地球儀のスライス A SLICE OF TERRESTRIAL GLOBE (講談社文庫)

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