もうすっかり忘れられたような食品への異物混入問題。あれの話題になった時に、「知らない人に『チキン・ナゲット』を説明すること」の苦労を知った。
具体的には父へ説明する際に、そう感じたのだ。今日の夕食での会話。
父だってチキン・ナゲットが食卓にのぼれば、たぶん「ああ、これか」と言うだろう(そういう機会は、まず無いのだけれど)。
彼がマクドナルドに言ってチキン・ナゲットを注文する姿は想像できない。でもお弁当か何かで類似した品は知っていると思うし、全く記憶になくても、鶏の唐揚げの亜種であることは理解できる。
でもこれを言葉で伝えると、なかなか難しい。
「骨の無い、一口サイズの鶏のフライ」などと説明したのだが、TV画面では、にゅるっと練られた「加熱前のチキン・ナゲット生地」が映し出されているのだから、父としては混乱してしまう。
「なるほど、要は練り製品か」という指摘は間違いではない。でも「揚げかまぼこ」みたいな、あるいは「鶏のつみれ」を想像されると、それは違うと言わねばならない。「そうではなくて、骨なしの鶏肉を安価に再現するために、種々の工夫と加工が加えられている点で、揚げかまぼことは別物である。食感としてはササミを柔らかくしたような、歯ごたえは鶏肉だが筋繊維の感じはしない品だ」と僕は追加の解説をするのだが、だんだん言っている自分の「チキン・ナゲット観」が、怪しくなってくる。「あれ、本当にそれでいいんだっけ?チキン・ナゲットってそもそも何なのだろう?」なんて感じに、思考が渦巻き始める。ところで、年寄りに説明すると、なんであれ妙に「弁護」っぽくなってしまうのはなぜだろう。
思えば僕は、特別にチキン・ナゲットが好きなわけではなかったのだった。食べたことはあるが、鶏肉と比較なんてした経験は無い。
そういえば、学生時代には「チキン・ナゲット丼」を、よく作った。業務用の冷凍食品として売られていたものを買っておいて、少しずつ消費したのだ。確か「冷凍ブラジル産鶏胸肉:セール品」よりは高価で、でも抜群に安かった。
本来は油で揚げて、あるいはオーブントースターで加熱して使う商品だった。揚げ物を極力避けていたから(後片付けが面倒)、いつも煮たり焼いたりして食べていた。もともと揚げたものを冷凍してあったから、それでもきちんと食べられる。美味しいとか、他人に食べさせたい、なんて代物では無くて、でも「低コストの追求」という、学生の一人暮らし料理の楽しみとしては、それなりに良い自己評価をしていたし、今だってそう思っている。
薄れていく記憶を、ここに記しておこうと思う。
- 深めのフライパンに胡麻油をひく
- みじん切りの生姜を炒める
- 電子レンジで解凍した、あるいはそのままのチキン・ナゲットをフライパンに投入
- ネギかタマネギを投入
- あれば椎茸を投入
- めんつゆと水を投入
- 溶き卵を流し入れ、予熱で火を通す
- ご飯に乗せて、生姜の酢漬けを添えて完成
今の目で見ると、「なぜ生姜か?」が気になる。
どういうわけか、あの当時の僕は、冷凍チキン・ナゲットを扱う際には生姜を効かせていた。もしかすると、あの格安冷凍チキン・ナゲットには、臭みがあったのかもしれない。そうだとしたら、安いとはいえ、無茶な話だと思う。臭み消しが必要な冷凍食品を食べて、「うん、これはこれで悪くない」と思っていたのだから、大学生というのは馬鹿だ。
あるいは単に、当時購読していた「オレンジページ」に、「冷凍チキン・ナゲット活用術!ポイントは生姜、それだけ。フライパン1つで楽々ごはん」みたいな記事があった可能性もある。思えばおおらかな時代だった。
余談だが、この冷凍チキン・ナゲットは、大根と煮ても食べられる。
見た目はぶよっとした小さながんもどき、ということは精進料理(というか“見立て”の料理素材)からの先祖返り(?)になる。残念ながら出汁は出ないし、そして煮過ぎると崩れる。雁ではなくて鶏だが。
試してみる価値は皆無だけれど、冷蔵庫にはがんもどきが無くて、でも冷凍庫にはチキン・ナゲットが余っている状況で、大根の煮物を作りたい人には有用な情報だと思う。生姜は合わないだろうが、どうしても、という人は摺り下ろし生姜と片栗粉で餡かけにすれば良いのではないか。薄い醤油仕立ての昆布出汁で、胡椒を少し振っても面白いだろう。こういう時は柚子胡椒が便利で、きっと合う。
本当ならば「輸入される安価な加工食品のリスク」について書きたかったところ。しかしもう眠いし、もうあの冷凍チキン・ナゲットを買う機会は無いし、マクドナルドにもほとんど行かないから、その辺りは省略する。では、おやすみなさい。
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