安全衛生啓発ポスター

昼休みにお茶を飲んでいたら「ねえ、あれはいったい何なのでしょう」と聞かれた。
聞いてきたのは、アメリカで育ち、アメリカで学位をとって、そのままアメリカ支社(?)に務めて、最近になって日本で働くようになった研究員。見た目は普通の日本人的なおっさんで、言葉は普通に通じるのだけれど、ちょっとした指摘や疑問点が面白い人だ。

彼の言う「あれ」は、掲示板に貼られた安全衛生強化月間のポスター。日本で「工場」や「事業所」と呼ばれるところに勤める人は、必ず目にしていると思う。オフィスビルで働く人だって、見たことは多いと思う。

 

若いアイドルや女優さんが、なんとも説明できない無難な服装(冬場は圧倒的にニットが多い)を着て、こちらを見て笑っている。隅のほうに防災や安全に関する標語やキャッチフレーズ(気持ちの悪いものが多い)が添えられていて、下か上にその運動を推進する組織名や「冬の安全衛生強化月間」といった言葉が書かれている。
芸能人の他に、稀にスポーツ選手(フィギュアスケート)も選ばれる。
グラデーションの背景、美人(にっこり)のバストアップ、無難な服装、スローガン、そんな要素が大判のしっかりしたポスターに盛り込まれている。小さく氏名と職業(モデル、とか女優)と書かれていることがほとんど。

あのポスター、僕も「なんなのだろう?」と、常々考えている。もう社会人になってずいぶん経つが、答が見いだせていない。あれは啓発や周知のための配布物だと聞いたことがある。配布物とはいうが、もちろん企業は経費で購入する。「成果を出さずとも、無駄であろうとも、そんな事は構わずに回る経済」の一種だと考えている。

 

アメリカには似たものは無いんですか?」と聞いてみた。
「無い。有ったとしたら問題とされるだろう。アメリカでもヨーロッパでも、消費者団体や労働組合はもっと突飛で過激なポスターを配ることは珍しくない。でもそれだって、メッセージ性があるから許されることであって、若く綺麗な有名人のポートレートをほぼそのまま配布・掲示するなんて事は、少なくともまともな団体が行う事とは思えない。『職場がなんとなく華やかになるよね』とか『たぶんこのほうが労働者達に喜ばれ、結果として安全や衛生や防災に役立つだろう』なんて思惑を持っているとしたら、まずその点が指摘されるだろう」との事。
こうして書いてみると、なんだか非難しているみたいだけれど、実際には単なる説明としての会話だった。休憩時間における、簡単な「日米カイシャ文化比較論」といった感じ。

そういえば、以前の職場にいた南米生まれの日系人(いわゆる出稼ぎの人)も、このポスターには驚いていた。
「男ばかりの職場に飾られるブロマイドの類だと思っていたら、事務のおばさんが掲示作業をしていてびっくりしたよ!フーシギーだねー」と言っていた。「あれは掲示期間が終わったら、ボスに言えば貰えるものだと勘違いしていた。でもみんな若いよねー。子供のポスターばかり1年中途切れずに延々と続くのは“ニホン的”だと思うけど、あれ子供じゃ無いんだってね」と、バルボッサ氏は言っていた。なるほど。

ところでGoogle JAPANやApple日本支社には、あの種のポスターは貼られているのだろうか。まさか「ポスターを買わないと安全衛生の取り組みが不十分だと看做される」なんて事は無いだろうが、それにしても似合わない。

 

ただ僕の耳には届いていないだけで、あのポスターに違和感を抱く女性も存在していると思う。例えば、行く先々に「美男子がにっこり微笑むポスター」が待ち構えていたら、男で異性愛者の僕ならば「なんだあれは」と思うし、「経費の無駄遣いじゃないか」とも感じるだろう。そういう細々とした積み重ねが「働き辛さ」につながるのではないかな、と今日はなんとなく思った。

しかしあれ、本当になんなのだろう。
なんだか昔、似たような内容の日記を書いたような気がする。でもまあこれも日常の一部なのだろう。違和感こそが生きる糧、とまではいかないけれど、あれに疑問を抱かなくなったらおしまいだとは思う。

 

 

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