仕事納めと美輪明宏

今日は仕事納め。大掃除と整理整頓、機器のメンテナンスで1日が終わった。
今までの人生で、こういうきちんとした年末の仕事納めをしたのは、たぶん初めて。今までは大晦日まで働き続けるとか、逆に早めに休暇をとって帰省する、あるいはそもそも年末に仕事を納めない(年末年始の長期休暇はあるが、仕事上の区切りではないため、特に大掃除などは行わない)職場ばかりだった。
なかなか新鮮なものである。整理整頓も掃除も好きだ。少なくとも、通常の業務よりは楽しいし、達成感がある。いつまでも引き出しの整理をしたり、手帳を更新したり、カレンダーを交換し続けて給料を貰いたいのだが、なかなかそうはいかないところが、世間の、そして世界の厳しさだと思う。

カレンダーといえば、今の勤め先では、壁に設置する前にひとつ作業を行わなければならない。
12月になると、取引業者などから大量にカレンダーが届く。大掃除の頃に、必要な分だけ貰って、それぞれの職場に吊り下げる。その前に、カレンダーの下部、会社名などが書かれた部分を、ざっくり切り捨てるのだ。
束ねた薄いものをざっくり切る設備には事欠かない職場なので、今日はあちこちで、ざくざくと裁断する音が聞こえた。
この切り落とす理由を聞いてみたが、よくわからない。かつて特定の業者との癒着が問題になって、その過剰反応ではないかと、伝え聞くエピソードからは推測できる。「利害関係者から、無料で物品を貰ってはならないルール」を守る為、とも聞いた。
自社と関連企業のものだけは、切り落とさない。

なかなか奇妙な文化だと思う。社名入りのカレンダーが悪いというのならば、受け取らなければいい。または、代金を払って買えばいい。
あれは広告なのだから、貰って、その部分を切り落としたら、信義に反すると僕は考える。
だから上司とお茶を飲んでいる時に「まるで新聞を購読するのに、広告は要らないって言ってるみたいですね」などに言ってみた。「へえっ、面白い考え方をするねえ」などと言われてしまった。「さすが、他所の会社から来た人は違う」と、感心されてしまった。

なんだか少し怖い。些少ではあるが問題を含んだ、本来ならばおおっぴらにできない物事を、タテマエでも何でもとにかく隠さない姿勢が、怖い。
小学生の時に、オーハシくんが他人の家の冷蔵庫を勝手に開ける事が問題になって(アイスと麦茶と牛乳が好き)、しかし本人は「えっ。何が悪いの?」と言っていた事を、ふと思い出した。確かオーハシくんの親も「へえっ、そんな考え方もあるんですね。家庭の違いって面白いですね」みたいな発言をしていたと記憶している。悪びれない人と組織は、苦手だ。

そしてこの件、僕と上司の会話を聞いていた他部署の人(大学から共同研究に来ている研究者)が耳に挟み、「確かに変だ。常識的ではない。事業所全体が、何かに麻痺しているのではないだろうか?」と、偉い人達の会議で取り上げてくれることになった。
実に喜ばしい事態ではある。でもお願いだから僕の名前は出さないで欲しい。なんとなく、この種の「社内文化への違和感」を指摘する新人は歓迎されない、そんな雰囲気を、そこかしこで感じるのだ。

 

この件は別としても、とりあえず数ヶ月間の勤務を通して、僕は同僚達に「異色の存在」として認知されているような、そんな気がする。全く業種も職種も違うところからの中途採用で、年齢も趣味も違うこともあって、今日のように「面白いものの見方、考え方」をする人間としての立ち位置が期待され、与えられ、自分もそのように振る舞ってきた。
今のところ、それは概ね、良いほうに働いている。かなり凡庸な発言をしても、「深くて良い話」として受け取ってもらえる。
なにしろ今までの経験から、良いことだけを抜き出して伝えているから、深く追求されない限りは褒めてもらえる。ガイジンみたいな扱い、と言い換えてもいい。

そんな話を先ほど友人にしたところ「美輪明宏のポジションだ」と指摘された。なるほど美輪明宏か。スピリチュアルとは程遠いが、確かにまあ、共通するところがあるかもしれない。「変わっている人が常識を語ると、それだけで評価される」というやつだろう。
美輪明宏氏は凡庸な事しか言わない(たぶん意識して、当たり前の人生訓しか言わない)が、僕が同じように振る舞っても働き難いだけなので、来年はもう少しだけ、違和感は隠さずに伝えたい、と決意する次第である。そうやって、少しずつ、職場を変えていかなければ、身も心も保たない。
たとえ歓迎されないとしても、カレンダーの下部を切り落とす際の罪悪感を忘れるよりはましだ。それが今年の(仕事における)総括であり、来年の目標。

 

でもまあ、仕事の事はすっぱり忘れて、もう完全に休日モードである。
夏の終わりに転職して、その時は全く余裕も先の見通しも無かったから、この長い休みを活用するなんて計画は立てられなかった。海外旅行にでも行きたい気分だが、今となっては遅い。
県内のどこか、美術館か博物館には行きたい。その前に年賀状を完成させ、積んである本を読まなければ。

 

 

知ろうとすること。 (新潮文庫)

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