合成食料

 仕事中に、隣の部署の人から、「人工合成食」を貰った。これっぽっちも関係無さそうな職場だから、なぜそんなものを持っていたのか、よくわからない。研究を主業務としている人だから、シンポジウムかワークショップで手に入れたのだと思う。
 席を外している間に、机の上に「市販されていない人工合成食材です。試食どうぞ。 〇〇課 Aより」という付箋とともに置かれていた。

 他の人達に聞いても、普通に「学会か出張のお土産でしょう。食べるといいよ」程度の反応しか無い。こういう食べ物が苦手な人などは、こっそり僕に譲ろうとする(僕は平気なので、ありがたくいただく)。
 しかし世間体の話として、「わーい、合成された食材だあ。SFっぽい。かっこいい。こういうの大好き」とはしゃぐべきではない、と思う。なにしろまだ新人なのだ。
 というわけで、昼休みに、こっそり食べてみた。

 見た目は、アルミ包装に充填された、羊羹のような感じ。色からすると、ニンジンのペーストを固めてあるらしい。なにしろ原材料表示が無いので自信が無いのだけれど、野菜の甘みと、うっすらと塩気、それに炒り大豆のような風味がする。

 帰りがけに、件の合成食料をくれた人に会うことができた。お礼を伝え、どのような品なのか聞いてみた。
 皆の予想通り、工業系ワークショップで手に入れたものだという。粗品というか、記念品なので、詳しいことはよくわからない。ただし完全な合成食料という訳ではなくて、一般的な食材をペーストにして固めた品、という事だった。とある包装資材メーカーが、“未来志向”を示すために少数生産したものではないか、と言う。

 真相を知って、ちょっとがっかりした。完全に生物から切り離された、工場生産の食物では無かった。食べていた時は、不味さまでもが味わいだったのに、今ではただの「人参羊羹」にしか見えない。これならば、科学博物館にある宇宙食のほうが未来っぽいと思う。

 フィクションの合成食料といえば、「天冥の標」に出てくる「SCS:セルフ・カロリー・システム」で作られるアレが食べてみたい。完全な合成品ではないにしろ、実に合理的で、味気無く、SF的だと思う。

 と、ここまで書いたところで猛烈に眠くなった。だからもう寝る。おやすみなさい。

 

天冥の標VII 新世界ハーブC (ハヤカワ文庫JA)

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