島田銘菓「黒奴」を買う。そして「8の字」を貰う。

 
知人の両親への手土産に、島田市銘菓の「黒奴」を買った。
まゆ玉のように丸めたこし餡を、昆布羊羹でコーティングしてある。少しだけケシ粒がかかっている。
黒くて丸くて、とても愛らしい。薄く塩味と旨味のある羊羹と、さっぱりとしたこし餡の組み合わせも素晴らしい。餡を丸めた系統の和菓子では、知る限りで最も美味しい。
島田市、というか志太平野では飛び抜けて素敵な和菓子だと思う。もっと上等な和菓子もあるけれど、そういう品は茶道の人達のもので、手土産には向かない。



いつも945円で15個入りの箱を買う。
職場の皆に配るような用途には向かないが、訪問先でお茶を飲む時などには控えめで相応しいと思う。高価すぎて恐縮されることも無い。
それなりの知名度はあるが自分用には買わない、そういう点でも手土産向きだと思っている。
ただし「和菓子は苦手」とわかっている場合は避ける。羊羹コーティングの小豆餡なので、無理な人には辛いだろう。クッキーとは違う。



そして今日は、自分用にも購入した。
買ったのは良いが、ぱくぱくと食べる種類のお菓子では無い。キーボードとモニタの間に置いて、コーヒーを飲みながら賞味する訳にはいかない。
だからお茶を淹れ、きちんとお皿に置いて、心して食べる。
これが洋菓子の場合は、無作法に食べても平気なものが多い。高級なクッキーやチョコレートを、あっという間に食べてしまって後悔したことは多い。







いつの間にか、手土産の定番リストが自分の中に出来上がっていた。そういう事をきちんとしていたかつての交際相手の影響もあるし、単に年上の知り合いが増えた事も原因だろう。
若い人にはCafe Bikiniのアイシングクッキーが定番。この店は、普通の焼き菓子もひと味違う。特に香ばしさが際立っている。
和菓子ならば前述の黒奴、洋菓子は伊勢丹にあるクッキー詰め合わせ(店名を忘れた)。ナチュラル系の人には「ひより工房」の焼き菓子。
定番リストとはいえ、相手の事を考えながら買い物をするのは実に楽しい。宝くじが当選したら(買った事は無いが)、無意味に手土産を買って暮らしていきたい。



必要にかられて、キオスクの土産コーナーで何かを選ぶ状況になると、とても迷う。「静岡茶バウム」が良いのか「みかんカステーラ」のほうが喜ばれるか、皆目見当がつかない。
就業時間中に回ってくる観光土産(特に伝統とは関係無い)は、ものすごく嬉しいのだが、自分で選ぶのは本当に難しい。
あれは肩の力を抜いて選ぶべき買い物だとはわかっている。理解はしているが、脱力してお菓子は選べない。
いつも時間いっぱいまで迷い、予算に応じて「真夜中のお菓子:うなぎパイV.S.O.P」や「桜えび煎餅」を買う。それで目的は達成されるが、本意ではないのも確かだ。
静岡県に「うなぎパイV.S.O.P」に代わる、買いやすい面白定番土産菓子があれば良いのだが。



遠方の知人には、静岡銘菓「8の字」を選ぶことが多い。
どういう訳か三重県の若者集団(かつての同僚達)は、この「8の字」を熱狂的に喜ぶ。
普段は、どちらかといえば「静岡限定キティちゃんパッケージのポッキー」を買うような人達。「8の字」に、彼らを惹きつける要素があるようには思えない。
僕には形が違うだけの「廉価版蕎麦ぼうろ」にしか見えないが、とにかく「こっこ」よりも「田子の月」よりも「8の字:プレーン味」が尊ばれた。新機軸の「シナモン」や「紅茶」への反応は薄い。
初めは気を遣ってくれているのかと思った。確かに僕は年長者にしては頼りないし、他県からの転入者自体が珍しい職場だった。
しかし「代金を払うから、次の帰省の時に買ってきて欲しい」と、それ専用の集計票(A4)が作られてからは、四日市コンビナートの謎として深くは考えないことに決めた。
そして今でも、彼らに会う時は8の字を持っていく。



あるいは僕のキャラクターと、手土産が結びついているのかもしれない。
友人の娘は「クッキーのおじさん」と僕を呼ぶ。面映ゆいが、悪い気はしない(なにしろbikiniのクッキーは可愛くて美味しい)。喜ばれる為に選んだのだから、嬉しくもある。
悪い気はしないのだが「ああ、おっさんになってしまったなあ」と実感する。まるで「サライ」か「開高健のエッセイ」みたいだ。枯れている。



今日は、知人の家を辞する時に「8の字」をいただいた。正確には「9の字」という、外観検査ではねられたアウトレット品。少し安い。
たまに食べると「8の字」は美味しい。小麦粉と砂糖と玉子を練って焼いただけなのに、手が止まらなくなる。
今回の「9の字」は、やや焼き色が強い。これもまた美味しい。
「8の字」には、良い意味で「貧者のビスコッティ」という趣がある。コーヒーにも合う。
しばらくはおやつに不自由しない。

BRUTUS (ブルータス) 2013年 11/1号 [雑誌]
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