怖い人

また旅の話。

今回のベトナムカンボジア旅行では、同じ日程でツアーを組んだため、ときどき顔を合わせる老夫婦がいた。
春日井市の自称「お大尽」で、毎月のように海外旅行をしている人達。
自分でお大尽を名乗るのも凄いが、さすがにお金持ちなので、ホテルや飛行機のクラス、訪れるお店が違う。でも同じお店に行くこともあって、そういう時は日本人同士、仲良く話をした。どちらかといえば、物価の安い後進国で、気楽にたくさんの買い物をするのが好きなようだ。高級品やブランド品に凝るタイプでは無い(でも"車はレクサス”は強調していた)。



この老夫婦の、おじいさんのほうが強烈な人だった。
ちょっと料理が出てくるのが遅かったり、灰皿が無かったりすると(ヘビースモーカーなのだ)、ものすごい顔で怒る。"鬼瓦のような”という感じ。
あんなに強烈な怒り方をする人は珍しい。テーブルをばんばん叩いたりする。
外国語が全然話せないので、とにかく表情で圧倒するのが彼のやり方のようだ。奥さんに対しても、同じように怒るし怒鳴る。
でも機嫌が良いと、すごく羽振りが良い。チップは弾むし、手当たり次第に買い物をする。
客引きとか売り込みの多い国だったが、何でも言い値で買う。小さな子供の物売りがいたりすると「ボランティアじゃ!」と言ってまとめ買いする。路上でフルーツを市価の10倍くらいで買って(といっても1ドルなのだが)、食べずに僕にくれたり、その辺に捨ててしまう。おかげで珍しい果物を食べることができた。
帰りの便では、お土産だけでトランクが1つ増えていた。「お金を持て余した人はいるものだなあ」と妙に感心した。



しかし、きちんとした大人が、喜怒哀楽の"怒”の迫力で人を従わせようとするのは、どうにも好きになれなかった。
なんというか、余裕が無いし、基本的に自分が有利な場面で怒るのだ。街の雑踏の中では大人しい。それは卑怯なやり方だと思う。
せめて外国では、もっと紳士でいてほしいと何度も思った。







怖いといえば、ベトナムカンボジアの入国審査官が怖かった。
ベトナムの入国審査は、いかにも共産主義国の官憲といった制服の係官が、じっと僕の顔を見つめて、パスポートを眺める。
愛想も何もない。ただ黙って睨んで、パスポートを投げてよこす。
とは言っても「ハイ!ベトナムへようこそ。入国目的は?観光、そりゃいいね。滞在日数は?うん、わかったよ。オーケー。良い旅を!」みたいにベトナム語で言われても、それはそれで困るのだが。
とにかく不機嫌そうな入国審査官だった。


カンボジアはもっと怖い。
指紋登録(親指、四本指をそれぞれ両手)をするのだが、その読取機械にエラーがあると、何かクメール語で悪態をつく。
そして「サム!レフト!」と怖い声で再読取りを指示する。読取りが遅いのは僕のせいではないのに、睨みながらコツコツとボールペンでパスポート(僕の大切なパスポート)を叩く。
あんなに怖い入国審査は、生まれて初めてだった。
英語が苦手なので、もともと入国審査が嫌い。待っている間はずっと、頭の中で、「何か聞かれたら”sightseeing”だ」と繰り返していた。でも意表をつかれた形で、どっと疲れてしまった。母はどういう訳か親指の指紋登録だけで済んだので、わけがわからない。



警察官とか自衛官といった「官」のつく職業の人が、威厳を持って働かなければいけないのはわかる。
しかし不機嫌なのは困るのだ。権力と感情は分けてほしい。
だいたい、どんな仕事であれ、朝からずっとぷりぷり怒っていたら、心身に悪いと思う。


どちらの国も、出国審査のほうは、すごくいい加減だった。
カンボジアでは手荷物検査の一環のように一瞬で終わり。ベトナムの出国審査は、ブース毎に冗談を言いあっていた。






もう一つ怖かったのが、ハノイの郊外でトイレ休憩した際に(というか、ガイドさんに観光客向け手工芸店に連れていかれた)、物売りの少女(中学生くらい)達に囲まれた時。
困ってしまった。ココナツジュースとか、果物とか、フランスパン、「Facebook」とプリントされた赤いTシャツ、それにガイドブック各種(日本語版は無かった)を手にして「1ドル、プリーズ!ミスター!」と口々に言われた。
たった1ドル(80〜90円)だし、何か適当に買って誤魔化そうとも思ったが、際限なく全員から買わされそうで、なにより普段から強く断る習慣が無いので、焦ってしまった。
とにかく目を合わさずに「ノーサンキュー」を繰り返して逃げてきた。カツアゲされるかと思った。
でも、街の物売りを断るのは、すぐに慣れた。欧米人観光客(特に貧乏そうな人)を真似ていたら、それほどしつこく追われる事は無くなった。
この「怖い」は、どちらかといえば自分の問題。なので後を引かない。解決も簡単。

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