あまり人に言えないけれど、大好きな食べ物がある。
誰かがエッセイで“背徳食”と言っていた。
一般的で無いが故に、だんだん隠れて食べること自体が快感になるのだ。
いつ好きになったかは覚えていないし、常日頃から求めている訳では無いのだが、急に食べたくなると我慢がきかなくなる。
それが手に入り難いものならそれでも断念できるのだが、いつも家にあるものだと大変だ。中毒になってしまう。
自分の場合は、ご飯にきな粉をかけて食べるのが好きだった。
でも、きな粉はいつも家にある訳ではない。餅の季節を過ぎると何処かへ消えてしまう。
実家にいた時は、こっそりスーパーで買って(土地柄、安部川餅的なパッケージのものが多い)、誰もいないときにこっそり食べていた。
独り暮らしをしてからは、堂々と乾物庫に備えている。
牛乳に入れたり(美味しい)、胡麻和えの代わりにしたりと、なかなか使い勝手が良い。
理由は判らないが、高校を卒業した頃から“コーンの缶詰”が好きになった。
クリームスタイルの、大きな缶のものが一番好ましい。
もちろんコーンスープにしたり(独り暮らしでは余る)、パンケーキに混ぜても使うが、最高の食べ方は“そのまま”だと思う。
缶を開け、胡椒を一振り、あればタバスコをほんの少し。
金気を感じながらその薄甘い食べ物を食べる喜びは、何物にも換え難い。
でも、主食にはしたくない。
キャンプによく行っていた頃は、この缶詰だけで夕食を済ませたことも多かった。
小さなコッヘルで凝った料理を作るのが流行った時代だったので、一人旅をしていると周りのキャンパーからは注目される。そこで缶詰を直食いしていると、たびたびバーベキューや豚汁やカレーを恵んでくれるのだ。大抵はファミリー・キャンパーで、子供が紙皿に盛り合わせて持ってきてくれる。
小さな焚き火で缶を温めているところを、じっと見る子供がいて、少し分けてあげることもあった。喜ばれるよりは、口にした直後に泣かれたり、ぺっと吐かれたりすることのほうが多かった(少し傷ついた)。
でも、ソロ・キャンプの食事は、缶詰とマシュマロくらいが丁度良い。
当時も今も、そう思っている。
今日もコーン缶が食べたくてたまらなかった。
仕事が終わったのが深夜なので、本来は何も食べずに寝るべきなのだが、こういう想いはなかなか止められない。
幸いなことに、アパートに帰れば完璧なクリーム・スタイルのスイートコーン缶が待っている。
切れ味の良い缶切りもある。
そんな訳で、仕事中はずっとコーン缶のことばかり考えていた。
今から食べる。
胡椒を振って、タバスコを数滴。
この種の食べ物は、深夜の台所で食べるのが一番素敵だと思う。