打ち合わせのためバーガーキングへ行ってきた。
普段の行動範囲に店が無いため、数年ぶりの訪問となる。
学生の時は「おおっアメリカ!」と興奮したものだが、今となっては多数のファストフード店のひとつ。それでも、少し癖のあるコーヒーや、なんだかよくわからないキャンペーン・メニューによって、バーガーキングらしさを感じることができた。
夕食前だったのでコーヒーのみ注文したが、久しぶりにハンバーガー(ワッパー)も食べてみたいものだ。
大学生の時には長期休みのたびに、箱根のホテルで泊まり込みのアルバイト*1をしていた。ドアマンや売店、そして夜はバーでも働いた。
社員食堂もあったけれど、忙しい時にはホテルに隣接した観光施設にあったバーガーキングで食べることが多かった。バーガーキングのほうが早いし、メニューも"若者向け"だったのだ。
そして、どういうわけか僕は職場の人達にかわいがられていて、週に何回かはバーガーキングで食事を奢ってもらえたのだった。
特別に同情を引く境遇というわけでもないのに、僕ばかり"ワッパー"をごちそうになっている状況は面白くなかったらしく、同じ時期に寮に入った他の学生アルバイト達には嫌味を言われたりもした*2。
なにしろ車が無ければ交通の便が悪い場所で、寮生活では食事の選択肢が少ない。
休日に遊覧船(海賊船!)に乗ってコンビニのある繁華なエリアまで行っても、観光客どものせいで棚が空ということもあった。仕方がないからホテル内の店で割高なプリッツやおつまみや土産菓子を買うしかないのだった*3。
僕は同じ部署の人達にはバーガーキングの昼食を、そして売店の補充でベーカリー部やフランス料理部へ行った時には即席のサンドイッチを、そして夜にはバーテンダーさんからクロックムッシュをごちそうになった*4。あのアルバイトで山羊のチーズやアーティチョークやフォアグラの味を知った。
あのホテルでの、食事限定の"モテ期"は、なんだったのだろうと思う。おそらくは一生の謎だ。
社員の方々だって30代から20代の若者たちだ。仕事に慣れない学生だった僕に対して良い格好をしてみたかったのかもしれないと推測はするが、ではなぜ僕*5にだけ親切だったのか。
同期のアルバイト学生でも、厨房関係の部署(ベーカリー部や和食部、フランス料理部)へ配属された人達は「地獄だ」と言って長く続かなかった。
おそらく、単に運が良かったのだろう。そう結論づけるしかない気がしている。
僕は結局、大学4年間のうち3年はこの箱根のホテルで働いた。そして、その全ての期間で、"食"に関してはちやほやされていたのだった。
今でもバーガーキングに行くと、あの箱根のホテルでの暮らしを思い出す。
文化財的な建築に増改築を繰り返し迷路じみた従業員通路と、閑散期の暇な時間と、寮の温泉と、バーガーキング。
今思えば、あれも「青春の1ページ」だったのだなあとわかる。
当時は「こんな隔絶された場所でアルバイトなんてしていて良いのだろうか。僕の青春はどこにあるのだ」なんて思っていたのだが。
それがバーガーキングの思い出。思い出すだけで、もう楽しくも悲しくも、懐かしささえも無い、ただの記憶ではある。
お題「ささやかな幸せ」