数少ない香川県での知り合い、前々職でお世話になった上司に沖縄土産を届けてきた。
料理好きな人で、沖縄のお麩を頼まれていたのだ。
業務用食材店や輸入食材店にありそうなものだが、土産として欲しいと言う。旅好きな人でもあるので、要は話がしたいのだろう。
沖縄住宅
というわけでしっかりと沖縄の話をしてきた。
この元・上司氏は住宅建築関係の仕事もしているため、沖縄の家について色々と聞くことができた。旅行に行ったのは僕なのに8割くらいは相手の話を聞いていた。でも、彼の話はとても面白い。
沖縄といえば、明るい色のコンクリート建築が有名。というか民家も商店も、コンクリートとモルタルで出来ている。アクセントは煉瓦色か藍色の焼き物。街も道も全体的に白っぽく、その白さも少しベージュがかった優しさがある。
このコンクリート建築は、台風対策でもあるし、気候にも合っているのだろう。
僕はあの様式が大好きだ。
しかし不思議なのは、他県では当たり前の新建築のハウスメーカー製住宅がまるで無いこと。個人宅からアパート・マンションに至るまで、ほとんどが“沖縄様式”なのだ。
香川県だってコンクリート建築大好き県だが、ここまで偏っていない。
これについて今日は“回答”を教えてもらった。
簡単にいうと「沖縄の経済力が低いから」だそうだ。
沖縄の経済は弱い。会社でも個人でも、自由にできるお金が東京の7割から8割らしい。確かに最低賃金は低いし*1、輸送コストから物価は高い。そういう土地では食品や外食は安くなり、結果として庶民の“経済の回転力”は弱まる。
本土並みの高機能住宅、天然木や新建材を使った家は、沖縄では高すぎる。台風に耐える強さは実現可能だがそれだってコストを押し上げる。
昔からのコンクリート建築は、素材もノウハウもあって、しかも少ない職人・業者で作ることができる(基礎も塀も家と同じブロックとコンクリートだ。)。
それになにより、コンクリート建築は長持ちする。
実はこの「沖縄コンクリート住宅だらけ」問題は、一緒に仕事をしている時にいちど聞いているのだ。「沖縄では新築物件の数に着目せよ」とヒントをもらっていた。
今回の旅では、きちんとその辺りを観察してみた。
沖縄の市街地では、建築中の住宅がおそろしく少ない。リフォームやただの塗り直し工事は何度か見かけたけれども、空き地から新規に家を建てているところは数回しか見なかった。
建物を更新する事自体が少ないのだ*2。
これもまた、低い経済力の反映かもしれない。
つまり沖縄の風景は、経済力の制約により、何十年も同じ様式で作り続けられた結果だということだ。もちろんコンクリート建築の専門家が見ればその進歩や変化もあるのだろうが、日本の他の地域に比べるとわかりづらくなっている。確かに、四国でも本州でも、いま30年前の作り方で家を建てる人はほとんどいない。
おそらくは、とかの人は言う。
これからの日本はこういう「変わらない風景」が当たり前になっていくのではないか。「味のある廃墟」は沖縄に限ったことではないけれど、補修と塗り直しで使い続けざるを得ない状況になるだろう、と。
しかし本土の家は、そこまで長持ちすることを考えていない。いや住もうと思えば何十年だって住める筈だが、作る人も住む人もそういう発想ではないうえに素材がコンクリートではない。想定外のトラブルは増えるだろう、と言う。それはなんとなく、わかる。
僕が今住んでいるアパートも、ずいぶんと古い。見た目も設備もそうは見えないけれど、基礎部分は15年前のものだ。築15年の単身者向けアパートといったら、僕が学生の時なら相当のボロアパートだった。建て替えてしかるべき種類の住宅。
でも今の技術では安くそれなりの外観にリフォームできる。追い焚きのできる風呂、広いクローゼット、LEDの証明を備えれば、数年前に建てたアパートと遜色ない。
でもやっぱりどこかで古さが現れる。暮らしていると、見えないところでガタが来ていることがわかる。来年には配管の修繕がある。
そういう住まいが、これからは多数派になる。
だから沖縄は未来の日本だ、という話だ。
沖縄を旅していると、東南アジアの暮らしを思い出す。同じような様式の家が続き、庶民の食事はおそろしく安く、働いている人達はどこかのんびりしている。
果たして日本全体がそこまで貧しくなった時に「貧しいアジア」の「良い部分」がどれだけ僕たちに実現できるのだろうか。
「ずいぶんと古いものを捨てちゃったからねえ」と上司は言う。せめてのんびりできればいいな、とは思う。
氷ぜんざい
さて沖縄の思い出といえば、かき氷である。
いわゆる「氷ぜんざい」、甘く煮た金時豆を使った素朴なものだ。
今回は専門店で1回、それから食後のデザートに1回食べた。
特に専門店の「新垣ぜんざい屋」は老舗でいつか行ってみたかった店。メニューには氷ぜんざいのみ、本当の専門店だ*3。
行列ができる沖縄そばの店が駐車場を共有し、町営市場(魚や野菜もあるが、アクセサリーショップやアート系のお店も入っている)も向かいにある。だからこその専門店かもしれない。
沖縄の「氷ぜんざい」の特徴として、甘い豆が下にしか無い、つまり上の氷部分(全体の8割)は無味の氷であることが挙げられる。
暑いから、ただの氷でもさくさくと食べすすめることができる。
でもなんとなく釈然としない。口の中が完全に冷え切ってから、甘い金時豆が現れるのだ。半分でいいので豆を上に乗せてくれたら、と思う。小さな器に山盛りだから、食べる前に混ぜるわけにもいかない。
「小盛り」にしてもらっても量が多めなのも謎だ。
沖縄では食べてばかり、だからほぼ水であるかき氷でもちょっとつらい。でも食べてしまう。
四国で食べられる店があったら嬉しい。今のところまだ見つけていない。