6本の物差し

朝は雨、昼から晴れ。

頼まれていたパソコン仕事を進めた後は、ひたすら家事に邁進していた。久しぶりに家具を動かしてその下に掃除機をかけ、ガスコンロ周りは磨き、机の上に散らばっていた書類はシュレッダーで刻んだ。

ずっと手つかずだった、工作関連の道具を整理してみた。
どうしてこんなに、というほど同じ工具や器具が見つかる*1

 

ステンレス製の15cmの物差し*2、これがとりあえず6本あった。
普段使いに車や台所にも常備しているので、過剰もいいところだ。レザークラフトから木工まで、全ての道具箱に入れても余ってしまう。
カッターナイフも多すぎる。これから、もっと見つかるだろう。

 

 

どうしてこれほどたくさんの「直尺」があるのか。
これは今までの転職歴が関係している。

薬の工場で製造部門や品質管理部門に勤めていた時は、いつもポケットにこれが入っていた。当日の作業で使うか否かに関わらず、とりあえずボールペンと一緒に胸ポケットに差す。クリーンルームや低酸素環境の時は、その場所にも常備されていた。

何度か転勤や異動があって、その度に1本ずついただいてきた。他の色々な道具を返す時に、「これくらいは記念に持っていけ」と言って渡してくれるのが、直尺か、L型の六角レンチセット。それ以上高価なものは、さすがに持ち出せない。今思うと、よくわからない風習だった。
次の部署に移ると、また新しい直尺が用意されている。
そして、家から道具を持ち込むなんて事は許されない会社でもあった。
ボールペン1本でも、私物が見つかれば始末書を書かされるし、仕事仲間から「業務を理解していない怠け者」と見做される。今思うと、面白い会社だった。人生初の勤め先で、品質管理の徹底を叩き込まれたことは、掛け値無しにラッキーだったと思う。大学で科学を学んだ事と同じくらいに、今の生活や仕事でプラスに働いている。

 

暮しの手帖 4世紀100号

暮しの手帖 4世紀100号

 

 

それから色々あって転職して、また同じように「新品を支給→異動時にいただく」の繰り返しがあって、どんどん家に溜まっていくことになった。腐るものではないし、滅多に壊れたりもしない。このサイズと強度の薄い金属板はホームセンターに行っても探さなければ見つからない。だから、工作の素材として“潰した”ものも多い。


工場だけでなく、研究施設に勤めていた時にも、同じように支給され、そして手元に巡ってきた。研究所といっても巨大な機械を自分で整備することもあるから、ちょっと何かを測る、あるいは隙間をつつくためには必要だった。手で触りたくないものをかき混ぜる、というような荒っぽい作業にも使うし、一時的なステーとしても活用できる。


事務や経理の仕事に就いても、この15cmで頑丈な物差しは、いつも手元にあった。たぶん1本くらいは自腹で買っていると思う。小さなメジャーと、この直尺は、とりあえず長さを測る時にまず手に取る道具として、生活に馴染んでいる。

 

暮しの手帖別冊 『暮らしのヒント集5』
 

 

こうして見ると、それぞれの職場毎の傷や汚れがよくわかる。
硫酸などの強い酸や、強アルカリ、有機溶剤、それぞれで変色しているし、擦れ具合も違う。インクで汚れていたものは、自宅で工作に使った跡だろう。仕事中は、ペンのインクが残るような“汚い仕事”はしなかった。もし汚れたらごしごし洗ってすぐに綺麗にしていた。

よく見ると、先輩社員の名前が刻んであったものもあった。退職する時に、まとめて「お前にやる」と残していってくれた机の中にあった1本*3

ただ名前が似ているという理由で、名前シールが貼られている直尺を貰ったこともある。自分はその人の後任だった。数日間だけ一緒に仕事をして「(名前シールの)ここを削れば、ほら君が使える」と渡された。

 

暮らしのヒント集2

暮らしのヒント集2

 

 

なんだか不思議なものが、不思議な残りかたをするなあ、と今はしみじみと思う。
職場を去る時に、寄せ書きや記念品、立派に製本されたアルバム*4をいただいている。そういうものは、たぶん実家のどこかに1つの箱に詰められている。

それとは別に、こうしてあちこちから集まった、単純な計測器具が、いま再び手元に集合したのだ。独り暮らしをして、大掃除と模様替えをまとめて行わなければ、たぶんここまでは一緒にならない。

 

シンワ測定 直尺 ステン 15cm JIS1級 赤数字入 14001

シンワ測定 直尺 ステン 15cm JIS1級 赤数字入 14001

 
シンワ測定 直尺 シルバー (反射抑制加工) 15cm JIS1級 13005

シンワ測定 直尺 シルバー (反射抑制加工) 15cm JIS1級 13005

 

 

これらステンレス製の直尺とは別に、普段はカーボン繊維強化プラスチックの定規を使っている。
普通の文具、無印良品の定番である、アルミ製の15cm定規もある。祖母から引き継いだ竹製の定規(長いものから短いものまで色々。数字ではなく点表示。)もある。アパートで定規の数コンテストを行ったら、たぶん上位を狙える。

カーボン繊維定規 15cm C-15 日本製 トライテック

カーボン繊維定規 15cm C-15 日本製 トライテック

 

 

 

 

というわけで、今は部屋の半分がかなり散らかっている。
「パソコン」「レザークラフト」「裁縫」「木工」「金属加工」「自転車」「共通」といったトレイを並べ、それぞれに引き出しや箱にある道具を仕分けていく。明日以降、暇をみて整理を進める。
道具も多いが素材や材料も多い。20代の頃に購入したものさえある。
よくこんな数の趣味の道具を、四国にまで持ち込んだものだ。全て自分の手で行ったことなのに、いやだからこそ、呆れてしまう。

 

 

 

お題「今日の出来事」

お題「わたしの黒歴史」

 

 

 

*1:布や革の“端切れ”については、今回は言及しない。
必要だから買ったのだ。
いつかきっと必要なのだ。
今ではないだけだ。反省はしない。

*2:「直尺」「金尺」「尺」「サシ」と、職場や土地で色々な呼び名があった。以後、直尺で統一する。

*3:インクの切れたボールペンや、プラスチックに貼り付いた消しゴム、数枚だけの付箋。ほとんどゴミだった。

*4:工場をまるごと閉める事になったので、卒業アルバムみたいなものを作ったのだった。
工場閉鎖前に打診された次の職場が九州の端っこで、これは無理だと会社を辞めた。