映画「スターリンの葬送狂騒曲」



スターリンの葬送狂騒曲、という映画を観てきた。
かのソビエト連邦指導者、ヨシフ・スターリーン氏が死んだ後のどたばたをブラックなコメディとして描く。

しっかり面白い。
いわゆるソビエトジョークやアネクドートもあるけれど、全体にヨーロッパ映画らしい冗談(僕にはぴんとこない)のほうが多い。

硬直した社会主義国のごく上層部の連中が権力闘争と愚痴と騙し合いをしながら葬儀や後継者選びを進めていく。もちろん史実通りの結末に落ち着くわけだが、記録に残っていない部分は本当に面白おかしく脚色されている。

 

しかしこの映画、一般の日本人向けではないと思う。「あ、気になる」程度で映画館に入ったら、全体の3割は「よくわからん」と退屈する気がしてならない。
日本人で、スターリンを知らない人はまずいないし、ほとんど知識が無い人や興味が無い人は、そもそもこの映画を観ない。

でも、スターリンとその周辺の人達についてこの映画を楽しめる水準の知識がある人はどれだけいるだろう。いわゆる「共産趣味」な人、別の映画や漫画や小説で予備知識がある人、そして事前に下調べした人ならば十分に楽しめる。

ちなみに自分は「速水螺旋人」氏の作品が大好物だから大丈夫*1。というか、登場人物が氏の作品に登場しそうで(つまり漫画の絵柄に置き換え可能で)困ってしまった。

 

靴ずれ戦線(1) (RYU COMICS)

靴ずれ戦線(1) (RYU COMICS)

 

 

 

ともかく、どんな時代のどんな国の人間か、どういう仕事をしたのかを、ある程度知っておかないと楽しみ辛い作品であることは確かだ。要は、その“ある程度”の水準が、ヨーロッパ規格なのだ。たぶんかの土地の人ならば(少なくともこの映画に興味を持つ人は)、スターリンがいてベリヤがいてフルシチョフがいる、というだけでどんな人間関係や背景なのかがわかるのだろう。
初登場の際に名前と肩書きが画面に出る以外は、台詞や振る舞いで登場人物の立場を理解する以外に無い点は、ある意味で不親切設計ではある。

とはいえ別にソビエトロシアの知識が足りなくても十分に面白い映画だった。大傑作でまた明日に観に行こう、とは思わない。でも退屈になる場面がひとつも無くて、最後までくすくす笑いながら楽しんでしまった。
ここ10年ほどで急増した「ベルリン陥落直前のヒトラーもの」映画が好きな人なら何かしらの面白みを見出せるのではないか。

 

 

しかしソ連が舞台なのに英語というのはとても違和感がある。冗談やスラングが多い作品だったからなおさら。英語圏の人達、特にアメリカ人が字幕を受け入れてくれたら良いのだけれどなかなかそうもいかないらしい。ロシア語とドイツ語は英語圏の制作でも英語にしないで欲しいと思う今日この頃です。
フランス語はフランス映画でしか出くわさないから今のところ大丈夫。でもきっとフランスが舞台の作品で英語は合わないだろう。

 

旅行者の朝食 (文春文庫)

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*1:大砲とスタンプはここ数年の大傑作だと思っている。靴ずれ戦線も好き。