合皮の帯みたいなもの

 

勤め先で落とし物があると、メールでその日のうちに周知されることになっている。大抵、財布とか鍵といった品名と、簡単な説明文、落ちていた場所がメールに書いてある。
メールで気付いた落とし主は、総務課の警備安全部門に行けばいいのだ。

 

今日は「合皮の帯状のもの」という文章とともに、キャメル色の「合皮の帯状のなにか」の写真が添えられていた。
僕はたぶん、サッシュじゃないかな、と思ったのだが、周囲の人達、特に年配の男性社員は、まるで見当も付かないと言っていたし、それなりに雑談の話題になっていたようだ。

質感や色合いからいって、女性の服飾雑貨であることは想像が付くと思うが、人によってはそれすらもわからない。高所作業用の保護具である、いや特殊な荷物を固定するバンドである、といった説が飛び交っていた。

僕がサッシュだと思ったのは、遙か昔にホテルでアルバイトをしていた時に(学生時代の長期休暇に寮付きのアルバイトをしていた)、バーで働いた経験があったから。お酒も飲めないのに、よくバーテンダーなどを務めたものだと今でも不思議だが、しかし年配のお客さん達には可愛がられていた。酒をほとんど飲まず、ただ僕をつかまえて延々と雑談をするお婆さんとか、ちょっと自分の日常から離れたお客さんが多くて、楽しい仕事だった。
その時には僕もサッシュベルトをしていた。質は良いが手抜き版、と教えてもらったホック式の黒いもの。一緒に働くことが多かった女の子は、もう少し上等かつ本格的な、ぎゅっと締めてからボタンで止めるタイプだったと記憶している。

 

だから昨今急に増えてきた、若い女性のサッシュもそれほど気にならない。飾りベルトなら昔からあるし、そもそも僕に関係した流行ではないことが確かだから、特に言うべきことはない。
素材的に暑そうなものが多いな、とは思うし、稀にファンタジー世界の住人みたいな人がいるけれど。

でもなんだかよくわからないが、職場の人達(特に年配の女性達)にはずいぶん驚かれてしまったのだった。ある種のフェティシズムの発露、だと捉えた人もいるのではないか(靴下のデニールを判別できる、みたいな)。

人それぞれ、それこそ十人十色の経験を積んできているのだ。
サッシュベルトを知っているおっさんがいても、特に不思議ではないと思うのだが。

 

そういえば、この前、東京で早朝の公園を歩いていた時に、そのサッシュが何本か落ちていた。時期的に、そして公園の散らかり様から、週末の花見の翌日といった風情だったが、あれはそう簡単に落とすものなのか。
女性ばかりの職場で、やたらと「シュシュ」の落とし物が多いところがあったけれど、あるいは単に「半ば消耗品」として、それほど気にしないものなのかもしれない。つまり、よくわからない。

 

ポケットに静岡百景

ポケットに静岡百景

 
静岡百景

静岡百景

 

 

 

t_ka:diaryは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。