矜持と病気とピーマンと。

同じ職場の人が、急に辞めることになった。体調を崩してしばらく休んでいて、今週も本調子ではない。さらに、何か思うところがあるのだろう、来週までで辞めさせてくださいと上司に伝え、昨日から公になった。
有休消化などの都合で、実質的には今日が最後の勤務。明日は手続きと私物整理。まだ半年ほどしか勤務していないし、仕事の内容からして、引き継ぎを忘れて困るようなことは、たぶん現場レベルでは少ない。

特にセレモニーじみた事はしない。スピーチとか記念品とか、恒例となっているからと段取りを始めた他職場の人がいたけれど、本人の希望を汲んで(職場が一丸となって)阻止。
余談だが、この会社には「正社員以外の若い人が退職する」ことを「卒業」と表現する人がいて、僕はとても気持ち悪いと思っているのだが、ああいう言語センスはどこで身につけるのか。100均で揃えた寄せ書きグッズでお礼のメッセージ、だって必須ではないだろうに。
「やめてやれよ」って思う。

 

それはさておき本人は、とても恐縮していた。
僕に言えたことは3つ。

  1. 体調を完全に管理することはできない。
  2. ルールに則って働き、そして辞める。義務は果たしているのだから、迷惑に思う人はいない。謝ることは何もない。
  3. ありがとうございました。お元気で。

1はまあ、常識である。
世の中には体調管理と叫べば健康が増進すると思っている人もいるけれど、そんなに単純ならば医学薬学は21世紀前半には完成である。
二日酔いで出社するような人がいた時代に、揶揄や卑下の意味合いを込めて使われはじめた勤め人にとっての「体調管理」という言葉。いつの間にか標語になってしまった。ジョークがスローガンになる、という怖さと愚かさ。
今の時代、日常生活に不健康を積極的に組み込む人は、それほどいない。何日も寝込み、病院に通い、それでも自身の不摂生を止められない人は、何かしらの指導やカウンセリングを受けているだろう。
病んだ人には、優しくありたい。自分だって、病むのだから。

 

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2について。
そりゃあ、仕事仲間が1人減るのだから、僕達としては大変である。個人的には仕事量が2倍になる作業だってある。
でも、それは愚痴であり、文句は上司に伝える。大変なのは、辞める本人の責任ではない。
言い換えると、休暇を取る人、辞める人の仕事を引き受けることは、僕達の給料に含まれている。上手くいくかそうでないかは別として、会社の仕組みがそうなっているのだから、責任を感じる筋合いは皆無なのだ。この辺りは労働法に書いてあるし、働く人間の矜持だと考えて間違い無い。

3の事は、特にここでは書かない。立派な同僚でした。健康になったら、何人かで「お食事会」をすることを約束。それくらいには仲が良いのだった。 

 

さて、こういう事を書くと、TwitterTumblrや、あるいはこのブログのコメント欄に、ちょっと手厳しい反論が寄せられることが過去に何度もあった。「迷惑を迷惑と言わないことが矜持?しんどいのは嘘じゃないんだから、我慢のし過ぎで病んでしまうのではないか」という趣旨の言葉がほとんど。
僕は思うのだけれど、辛いことをただ心のままに辛い辛いと言い続ける事と、自身と社会との間に理屈を定め、それを常にアップデートする事とでは、たぶん後者のほうが“病む”ことは少ない。失敗はあるだろうし、日々の思考量は増えるかもしれないが、自分の心がいつだって正解を示すなんて楽観はそれこそ危険だ。
それに、たとえ病んだとしても、そこから立ち直るにも必要な要素だと思っている。自身の“病んだ”経験からしても。

この種のエピソードでいちばんびっくりしたのは、ピーマンについて。
『「ピーマンが食べられない」と「ピーマンが食べたくない」は、少なくとも大人になったら区別すべきだ』という意見へ、上記のような反応が多く寄せられた時だ。これはもう、反論が面倒なので無視した。
個別の事例では、もしかしたらピーマンを食べられない自分を認めることで病んでしまうこともあるだろう(“病む”って大雑把な言い方だ…)。しかしそんなレアケースまで含めた“世界のルール”を語った訳じゃない。ただ、自分の欲求と、そう簡単には変えられない性質とを(言葉のうえで)混ぜているのは甘えだと思うし、害があるだろう、という文脈だった。

ここ数年、インターネット界隈では、この「甘え」を指摘されると、直ちに「厳しい意見だ!病んでしまうかもしれないじゃないか」と反論する人が現れる。確かに厳しい言葉と現実に病む人が顕在化した時代ではある。
では、と僕は考える。優しい言葉と美しい世界観を選べば心療内科通院者が減るのだろうか。そうじゃないだろう、というのが僕の実感であり、そして理屈も続くのだけれど、もう寝る時間なので割愛する。

言葉をもって自傷しろ、と言っているのではない。
ただ、自省もしないで見出す優しい世界は、たぶん自分自身も周囲の人も損なってしまう。

最後にもうひとつ。何であれ意見を書くと「そうしなきゃならないのか!」と怒る人が増えた気がする。読み捨ててくれればいいのに、って思うぜ! 

 

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