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根性とPowerPoint

PowerPoint」というアプリケーションがある。Microsoft Officeに含まれていて、いわゆるスライド形式のプレゼンテーションができる。職種にもよるが、ホワイトカラーでもブルーカラーでも、何かしら触れる機会はあると思う。

今の勤め先では、よく使うアプリのひとつだ。
企業の研究所だから研究員は日常的に用いる。彼らの手足となって労働する僕達も、「職場の取り組み」的なものを発表する時や、資料を見せながら説明する時に使う。僕はとても便利だと思うが、多くの人は「厄介なツール」だと捉えている、ように見える。

ところでこの勤め先、基本的にパソコンを2画面で扱う習慣が無い。何人かは2台のディスプレイを並べて仕事をしているが、それは例外であり、常識としてパソコンの画面は1つなのだ。

さらに言うと、何らかの理由でモニタを出力する際、いちばん良くあるのがプレゼンテーションをプロジェクターで映し出す際なのだが、その際には「手元のモニターのコピーが投影される」のが、当然とされている。もともと「1つの機械に1つのモニター」が常識だから、あっちとこっちが違う画面、という発想が生まれてこない。

実際に、パソコンを更新する際にも、少なくとも研究員でない人達や部署では、2つ以上のディスプレイを扱う機能は初めから検討されない。つまり、いちばん安いグラフィックボード(というかグラフィック機能)しか選択肢は無く、例えモニター出力が2つ以上あっても、それは「おなじ画面のコピー」しか映らない。

ここで問題が発生する。
PowerPointでスライドショー(プレゼンテーションですね)を行う際に、手元の画面で原稿を読み、そしてプロジェクターでスライドを見せる、という方法が使えないのだ。

僕は配属当時、ものすごくびっくりした。
みんな発表原稿を暗記するか、印刷して、プレゼンテーションに挑んでいるのだから。最初に見たのが、若手の「職場での安全活動紹介」だったから、何かしらの理由が、例えば「若いのだから、これくらいは頭に叩き込め。原稿を棒読みなんて許されないぞ」みたいな意図があるのかと勘ぐったくらいだ。

で、僕が1年くらい前に「PowerPointには『ノート』という入力欄があって、ここに原稿を入力していくと…発表の際に原稿を読みながらスライドを遷移できるのです」と解説した際には、職場の皆がびっくりしたのだ。「なるほどこの欄(画面の2割くらいを占めている)はそういう機能があったのか」と。
なぜ今日、こんな事をここに書いているかというと、隣の部署でおなじ話をしたら、「入社して数十年、初めて知った。最新バージョンだからだよね」と4人から言われたからなのです。びっくりした。

この勤め先では、発表原稿というのはWordかExcel(!)あるいは手書きで別に用意するのが当たり前だった。

 

こうしてMicrosoftの人達が苦労して実装した(大昔に実装した)ノート機能を十分に活かすためには、「手元の画面とプロジェクターで別の画面を映す」パソコンが必要になる。
先日、パソコンの更新時期が来ていて、どんな機能を必要としているのかアンケートが届いたので、その旨を書いて提出した。結果は「今回は見送る」とのこと。「今までだって上手くやってきたし、目新しい機能に飛びつく理由もコストも無いでしょう」という理由らしい。いやだから目新しくないんだってば、と思ったけれども言わない。

 

しかし僕は思う。
こんな「手元の画面に原稿があって、プロジェクターではスライドが映る」という状態は、この種のアプリケーションを扱えば「あったら良いのに」と思って当然であり、速やかに実装されて然るべきなのだ。そして、実際に大昔から実装されて、目立つ位置と面積を占め、初回の起動では必ず紹介される。
勤め先の多くの人達は「ああ便利だ。こうしてマウスで操作しながら、片手でA4の原稿をめくって読むプレゼンは効率的だ。ちょっと暗いけれど、これが最適なんだなあ」と思って今までやってきた訳ではあるまい。不便だ面倒だと、プリンタに紙を補充したり、スライドと原稿の摺り合わせをしてきたのだ。

どういうわけか、パソコンに関して、というよりもパソコンを使った書類仕事に関しては、徹底的に想像力が足りないのが、今の時代の「パソコンが苦手なひと」だと思う。昭和の終わり頃のそれとは違うし、こと仕事に関していえば困ることが多い。場合によっては、「用意された機能を使う=楽をしている=技術で遊んでいる」と見做されてしまう。
別の方向に想像力が不足すると(残念なことに、大抵、不足する)、WordやExcelで線に囲まれた「記入欄」に、ノートみたいな罫線も作り上げてしまうのだ。ちょっと考えれば不要だとわかるのに。

 

ちなみに研究員さん達は、なにしろ自分の研究だから、プレゼン資料をみっちり作れば、解説は原稿無しで何とでもなるそうです。研究職で無い人達の非効率に対しては、わざわざ教えなくとも気付くだろう、と皆が思って数十年、忙しいのでつい放置、とのこと。なるほど。

 

最後にもうひとつのびっくり。
今日の午後、計算機(この現実空間で実体を持ったそれ)を使って算出した平均値をExcelにひとつずつ入力させられている新人さんに遭遇した。新人さんも特に不思議に思っていないようだった。
スティーブ・ジョブズが生きていたら、たぶん怒る。Apple社と関係無くとも怒るはずだ。

 

すてきなあなたに よりぬき集

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