すごく簡単な作業なんだけど

夕方、同僚から連絡があった。
「すごく簡単な作業なんだけど、やってくれるかな」みたいなメッセージがLINEで届く。経験上、こういう書き方で始まり、まともな終末に至った例が無いのだが、でも話は当然、聞いてみる。

要は「パソコンを使うと簡単だが、手作業では面倒極まりない作業」をお願いされたのだ。イベントでの一覧表とか三角くじとかライブのチケット制作とか、その種のデジタル作業と印刷関係。

確かに簡単な作業。僕ならばillustratorで10分の作業に印刷時間を少し加えて終了するだろう。
でも残念ながら、急に言われても、対応できない。今はまだ仕事中で、明日からは旅行に行く、と伝えて断ることに。タイミングが悪い。

 

この種の作業は、基本的に受けることにはしている。喜んでもらえれば嬉しいし、得意不得意をお互いに補い合って楽しく暮らすのはひとつの理想だと思うので。

でも無理な時は無理。
だからいくつかの提案、代案をする。
自宅にパソコンやプリンタが無いというから(Microsoft Officeが使えない状況)、ではスマホのアプリで無料のもの、例えばGoogleスプレッドシートでデータを作り、コンビニの印刷サービス(コピー機に送信するタイプ)でプリントアウトすればいい、等々。しかしそれは難しくてできない、という。
考えてみたら、欲しているものは、既製品が百円ショップにあった。ということは事務用品店やロフトや東急ハンズにはもっと種類や量があるはずで、数百円の出費で解決するのではないか。我ながら良いアイデアだと考え伝えてみたところ、「お金がかかるじゃん」と却下。

この「お金がかかるじゃん」で、いきなり親切心が失せた。
僕はもちろん、お金が欲しかったわけではない。そもそもお金を貰えるレベルの作業ではない。でも、だからといって「無料」という理由で“受注”はできない。この辺りの気分は以前も説明した筈だが、まるでわかってもらっていなかった。
大げさに書くと、言葉に傷ついた。言葉を選ばなかったことに傷ついた、というほうが正確か。

僕はよくイラスト制作などを「仕様は明解に。納期無し。催促無し。責任はとりません。費用は実費、消耗品の分だけ。嫌になったら投げ出します。それでもいいなら」という条件で請け負う。もちろん親しい間柄に限るし、ほとんどの人はこの説明で、どういうスタンスなのかわかってくれる。だから気持ち良く技術を使うことができる。
わかってくれない人には、もっと具体的で、いくぶんギスギスした言葉を用いても、絶対に伝わらない。不思議といえば不思議、でもなんとなく「無料の紙ナプキンなら束で取って雑に使ってもいいじゃん」と考える人達に似ているのかな、とは思う。
損得ではなくて善悪の話、なのかもしれない。

 

でも同僚は同僚であり、そもそも悪い人ではない。
だからアドバイスはする。
「駅前にはデータ作成や出力サービスを行う店がある。個人でも注文できる。そこにアイデア・メモを持っていき、相談すれば数日で出来上がるだろう」と教える。
返答は「そこまでする気は無い。半日かかるが、手書きとハサミで頑張る」。
悪い人ではないが、残念ではある。「頑張る」の代用か。もっと効率化や高品質を求められていたのかと思ったのに。

しかしこれ以上書くと悪口になってしまうが、でも(やっぱり)書いてしまうが、この種の「親切の非対称」に無頓着な人達は同時に、好き嫌いによる作業の選り好みがことさら大きい。今回の件でいえば、スマホでデータを作ってローソンやセブンイレブンに送信する一連のやりとりを試して学ぶほうが、徹夜の手作業よりも楽なはずだ。僕がぱぱっと作業するのが最も楽だとしても、それはそれとして。
ただやりたくないから「できない」と言う。もちろん、本を買って調べろ、といっても「自分には無理」となる。
ゴキブリに触れることができる、という事実を認めながら、ゴキブリを怖がればいいのだ。


簡単な作業だから、ではなくて、自分は苦手でやりたくないけれどお金と時間を節約したい、と最初から伝えてくれれば良かったのに。僕は簡単な作業なので請け負うわけではなくて、役に立ちたいから親切にするのだ。代案だって、もっと良いものが考えられたかもしれない。勝負事ではないのだから、カードはまず開示するのが誠意だと思うし、ものには言い方がある。

 

 

 

まるで関係無いが、先ほどTVのバラエティー番組で、「指紋は個人を特定できるので、犯罪捜査で活用されている」という“事実”に対し、「ええーっ」と声がかぶさり、ゲストのタレントさん達は口に手を当てて驚いていた。僕はその驚きに対して「ええーっ」と思うのだが、もしかして少数派だろうか。 

夜行

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ぐるぐる問答: 森見登美彦氏対談集

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