立秋の茶会にて

暦の上では秋の始まり、立秋である。
この暑いのに、誘われてお茶席の手伝いをしてきた。

ただのお茶席ではない。
自分の先生が主催し、文化財的なお寺で開催する、数年に一度の大きな茶会だ。先生にとっては弟子達と自分の道具を披露する場でもある。

僕は弟子以下の、月に1回くらい稽古に参加する程度の未熟者だから、今回はもちろん裏方。水屋といったか、要はバックヤードで荷運びから洗い物までする“なんでも屋”だ。

だから服装はカジュアルな洋服でいい。靴下は白足袋を模すということで、白靴下が指定されている。カジュアルといっても、やはりきちんとした、そして地味なものを選ぶ。
というわけで、無印良品その他の力を借りて、白いシャツにダーク・ブラウンのパンツ(プレスラインはしっかりと)、そして白靴下という出で立ちでの参加となった。皆から「NHK連続テレビ小説っぽい」と言われたが、反論できない戦後の混乱期を思わせる質素さだった。

さて夏場のお茶会は、ことさら朝が早い。これはもちろん涼しさを期待して、そして朝の風情を大切にするから、だという。
山寺の朝は確かに気持ちが良かった。でも5時30分集合は、とてもとてもハードだったことは、ここに書いておきたい。僕などは準備に苦労は無いが、和服で参加するお弟子さん達は大変そうだった。

文化財として保護されているお寺ということで、エアコンなんてもちろん無い。これも和服の人達には辛い。僕は麻のシャツに、機能性のある生地のアンダーウェアやパンツで揃えたけれど、それでも暑かった。働いている時は頻繁に水分補給もするし、扇風機は常時稼働、汗を拭く用の(メントールその他が配合された制汗作用もある)ウエットティッシュも活用したけれど、それでも体力が削られていくのがわかる。きりりと和服を着こなしている先輩達も、ふとした拍子に“暑さが顔に”出ていた。
そんな環境でも、暑い暑いと口には出すものの、茶道の先生は顔や所作が崩れることがなく、なんというか「クール」だった。

初めて知ったが、こういうイベントは、優雅にしゃかしゃかとお茶を供するわけではない。メインの客にはきちんとお茶を点てるが、他の人達には裏で準備して、次々と運び込む。といっても当然、あらかじめ作り置きできるわけではないから、タイミングを見て人数分の抹茶を(バックヤード的な部屋で)急いで点てる。高価なお茶碗に、茶杓で抹茶を計り入れ、お湯を入れてしゃかしゃかと茶筅で作るという作業自体は表の仕事と同じだけれど、お客様が見ているわけではないから効率優先の手さばきで用意する。
お茶碗が帰ってきたら急いで洗って、次のお客さんに向けての準備が始まる。結局、休む暇なんて無かった。僕だってお茶を点てたし、お菓子を盆に盛ったりもした。

かなり疲れが出てきた後半、少し席が空いたからということで、自分もお茶の席に参加することになった。
お稽古は休みがちだったから作法も何も忘れてしまったし、空いていない席にいるのはどうみても「重鎮」っぽいお婆さんで、いくら楽にして良いと言われてもあれは本当に辛かった。
しかも、正座の痛みが尋常ではなかった。お稽古では最悪の場合は足を崩してもいいし、掛け軸の説明や茶道具の謂われなんて時間は無いが、今日は当然、フルコース。

でも本当に楽しかった。
裏方というのが性に合っている。障子の向こう側から和やかなお茶席の話し声が聞こえてくるのも素敵。

それに、和菓子が抜群に美味しい。どこかの名店の品を特別に用意した、とのことだが、なぜ単なる練り切りがこんなに味わい深いのだろう。
風の吹き抜ける座敷で抹茶を飲む。もちろん好きな味だが、今日の抹茶は特別だった。なんというか、「しゃっきり」した。お手伝いをしながら、帰りにはコーヒーを飲むのだそれで疲れを癒やすのだと考え続けていたが、お茶の席で(不十分な作法のまま)いただいた抹茶は、その気分を吹き飛ばすものだった。あれは不思議な体験だった。お茶やコーヒーを世界中の修行者が好んだ理由が、我が身のこととしてわかった気がした。普段はカフェインなんてまるで効かないのに。

 

 

さて、今は家でのんびりしている。
街の花火大会の音が聞こえる。外にでて3分も歩けば、その花火を見ることもできる。が、どうにも動く気にならない。疲れたし、眠いし、夏休み最後ということで片付けておきたい事も多々ある。
とりあえず、今から30分、軽く寝ようと思う。それから少し頑張る。そして、しっかり寝る。それで今日はおしまい。

 

 

裏千家茶道  水屋仕事の心得 (お茶のおけいこ)

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入門 裏千家のお茶に親しむ

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