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映画の感想 『ロブスター』と『アイヒマン・ショー』

映画

映画2本、先週末に鑑賞したものの感想を以下に。いつも通り、他サイトに書いたものを貼り付けてみる。少し改変した。

ロブスター



へんちくりん、な映画だった。
悪い夢のような、寓話的なストーリー。が、明確な教訓が示されているわけではなくて、僕達の常識を切り取って大げさに制度化・常識化してみたら、世界はこんなにもオモシロおかしく愛おしい、みたいな作品。初期条件が少しズレただけのシミュレーションを思わせる。

独身者はホテルに収容され、45日以内にパートナーを見つけないと「動物」に変えられてしまう。悪夢だ。まるで他人事ではない。
みんな大真面目に、スクリーンの外側にいる僕からしたら滑稽な、その「結婚原理主義に基づいた正しい社会活動」に邁進していく。規則正しいクリーンな生活と、そして森の「独身者」を狩ることが、ホテルでの暮らしとなる。
主人公も、彼と知り合うことになる「独身者の仲間たち」も、みんなリアルにしょぼくれているのが涙を誘う。まるで他人事ではない。いや、映画だから見苦しい訳じゃないのだが、徹底的に「ああ、これじゃ駄目だ。わかるわー」と思わせる男達なのだ。がっちりと握手をしたくなる。

後半は、主人公が「独身主義者」の森へ脱走し、彼らのコミュニティのメンバーとして、今度は追われる身となる。この集団も逆の意味で徹底している。カップル禁止、ダンスパーティーはイヤホンでテクノを聞きながら個々人で楽しむ。これまたハードな世界である。
この森で密かに育まれる愛、それぞれの陣営の思惑、嘘の行き違い、そんなどたばたの末に主人公はある結末を迎える。「ロブスター」に造り変えられた静かな余生か、あるいは真実の愛か。そんなお話。

結末を迎えても、世界は変わらない。
自分に似た部分のある人を好きになる、そんな当たり前が、この物語では壮絶な結果へと繋がっていく。
制度としての結婚、生き方の選択、誰も疑わないグロテスクな世界の仕組み、ぜんぶまとめて、でも目を背けられないのはなぜだろう。メイドさんが美人だったから、だろうか。よくわからない。

そう、理詰めで考えるとよくわからないことばかり。
でも共感する場面は、驚くほど多い。自分でも困ってしまうくらいに。
映画ってすごい、と改めて思わせる作品でした。

 

 

Lobster

Lobster

 

 

 

アイヒマン・ショー

悪名高き「ホロコースト」、いわゆる「ユダヤ人問題の最終的解決」の責任者であったナチス親衛隊将校、ルドルフ・アイヒマンの裁判を映像として残そうと努力した人達のストーリー。

戦後、アルゼンチンで拘束されたアイヒマン。建国はしたが微妙な立場のイスラエルは、ユダヤ人国家として彼を裁く。その正当性をアピールするために(戦争当事者ではない国家が戦犯を裁けるのか、はとても難しい問題だ)、あるいは「絶滅収容所」で何が行われていたのかを国際社会と、そして他でもない同胞に共有するためにも、イスラエルはその裁判を史上初のテレビ中継で公開する。

有能なスタッフが結集する。
それぞれの思惑が対立する。例えば「人間たるアイヒマン」をあぶり出そうとする撮影監督、アイヒマンの(怪物的な)悪道を世の中に知らしめたいプロデューサーのやりとりは、この作品の大きな見どころだ。彼らを妨害するナチスの支持者、収容所での惨事を思い出して仕事ができなくなってしまう老カメラマン、ホテルの女将(この人はすごく好きだ)、色々な立場で熱狂の数ヶ月が過ぎていく。
運悪く、といって良いのか、キューバ危機や、スプートニク1号による宇宙到達といった世界的大ニュースが重なり、人の関心は常に「アイヒマン・ショー」にばかり留まらない。
が、それでも裁判は続き、歴史はテレビ(とフィルム)に写しとられていく。
この裁判とTV中継を通じて、ようやく「ホロコースト」や「アウシュビッツ」の共通認識が、ユダヤ人社会と西欧に広まったと聞く。

後半、人によっては正視できない記録映像が挿入される。劇場内で「ひゅっ」と息を呑む音があちこちから聞こえ、下を向いてうずくまってしまう人がいたくらいの恐ろしい数分間。この時、僕達と、劇中のアイヒマンは、同じものを見せられている。
残酷な人種差別主義者というよりは有能な小役人に見えるアイヒマン氏が、その映像を見てどう振る舞うのか、それは映画を観た人間だけが知ることになる。徒労感とともに、どこか納得させられる場面でもあった。
誰も狂ってはいなかったからこそ「ホロコースト」は推進できた、そんなやるせない事実が恐ろしい。今に生きる自分達にも、アイヒマン的な要素はあることもまた、本作では突きつけられる。

「戦争中には、たった一つしか責任は問われません。命令に従う責任ということです」


アンネの日記」を読んだ子供が、大人になって観るにふさわしい映画。最近の作品でいうと「サウルの息子」もそうだが、この、人間の為したジェノサイドには、学ぶべきことが山ほどある。目は、背けられない。

 

服従の心理 (河出文庫)

服従の心理 (河出文庫)

 
われらはみな、アイヒマンの息子

われらはみな、アイヒマンの息子

 

 どちらも良い作品でした。観て良かった。
映画、習慣のように連続して見続けると、ちょっと今までとは違う感覚が楽しめる。最近の数ヶ月はそんな感じ。