太陽は月を、月は太陽を

木星が明るい。たぶん木星だと思う。とにかく、今夜は明るい惑星が妙に目立っていた。

 

職場には3種類の上級管理職がいる。
まず研究を統括する人。研究開発部門だから、これは当たり前。自身が研究者でもある。
そして設備管理の責任者。高度な機器から建物まで、この人が目を光らせている。
最後に、お金の関係を仕切る人。それなりに大きなお金が動くため、役職の高い人が特別に配置される。

この、金銭関係の管理職のおじさんが、壊滅的にスピーチが下手なのだ。
話っぷりは堂々として、きちんと「会社の偉い人」っぽい話し方をする。ただ、よく“滑る”。
滑るといっても、この人の場合は、サイエンティフィックな“滑り”が専門。
今日は「ベテラン2名が退職するにあたっての言葉」で、こんな事を言っていた。

2人はとても良いコンビでした。月と太陽のように対照的な、でもだからこそお互いの持ち味を活かして輝かしい業績を(略)なのです。
月の輝きが太陽なくしてはありえない、そして太陽もまた、月がなければ輝けないのです。皆さんも(略)ということで、お2人への感謝の言葉とさせていただきます。

 

僕などは、この種の発言は面白く聞くだけだが、研究職の人達は笑っていられないのが本音だと思う。2年くらいのサイクルで本社からやってくる、予算のことばかり気にする取締役クラスの(科学に疎い)おじさんは、確かに「敵」っぽい。ドラマや漫画に登場する、わかりやすい財政担当者といった感じがする。

他にもこの人は、数々の名発言がある。

  • 水素エンジンはとてもクリーン。頑丈なピストンエンジンでしっかり圧縮すれば、排出されるのはヘリウムだけ。
  • ミョウガを食べると物忘れが激しくなる。ラッキョウで昔の思い出が甦る。脳の“活性”がポイント。
  • コーヒーを飲む人は、消化器が真っ黒に染まってしまう。ミルクを入れよう。
  • 日本人は味覚が繊細。
  • 宇宙の真空を持ってくれば無重力実験は容易い。技術も金もあるが、それをやると宇宙開発が滞る。難しい問題だ。

 

ある程度の地位や立ち位置がある人は、スピーチや会議の席で、あからさまに苦笑したり、肩をすくめている。そういう事ができない下っ端研究職にとっては、こういうのはたまらないだろう。飲み会などでは、さらに「酷い」そうだ。

経済にも科学にも疎い、ただ研究者の手足と目耳になって働く我々は、この人の話を聞き流すことができるだけ幸いである、といえよう。たまに信じてしまう人がいるから困りものだが。

江戸しぐさ」ではないが、「良い話」に箔をつけるために科学エピソードを持ち出すのならば、それ相応の地力が必要なのだと思う。少なくとも研究を仕事にしている人の前では、がんばらないとボロが出る。よく「アレさえなければ良い管理職なんだけどねー」と言われている。これはもう、損としか言いようがない。

 

江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統 (星海社新書)