庭師

蟲師 特別篇 日蝕む翳 (KCデラックス アフタヌーン)

夜の7時過ぎに、変な来客があった。
客というか、ただの飛び込み営業。
「お宅の庭は素晴らしい。ぜひ手入れをさせてくれ。私は日本全国を旅している“流し”の庭師です」と言う。
インターホン越しに断ったから、それ以上のことはわからない。

この自称庭師さん、受け入れてしまうと庭だけでなく、屋根から浄水器まで色々なものを売りつけられそうな、そんな予感がする。

そもそも夜だから庭の様子なんてわからない。そして庭師が関心をもつような類の、手のかかった庭というわけでもないのだ。

それにしても、庭仕事を専門業者に頼むような人は、既に馴染みの庭師との付き合いがあるのではないだろうか。「そうかそうか、では今日はちょっと、この正体不明な中年男性に頼んでみよう」みたいな発想は、あまりしないように思える。

今夜の、この来訪者は、なんとなく妖怪じみている。
意味も意図も不明で、去った後に小さな「何か」を残しそうな、そういう妖怪。子供の頃に愛読した「ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大図鑑」みたいな本に、よくそういう物の怪が載っていた。「だから何なのだ」と子供心に思う、強さや凶悪さに欠ける、妙なものたち。オチが無いところが、唯一の怖いところ。

でも妖怪は、それで良いのだと(大人になった僕は)考える。起承転結がはっきりした、全てを説明立てて述べられるようなものは、幽霊か神の類だろう。
たとえ妖怪が「理解不能な出来事を説明するために人間が考えた存在」だとしても、でも余白や穴があったほうが、それらしく感じる。

 

全然関係無いのだが、今の職場で使っているドライヤー(家庭用)は、送風口の奥に髪の毛が絡まっている。クリーンルームとはいえないまでも綺麗な環境で、様々な物品を乾かす道具として導入されたドライヤーに、どうして長い髪が入るのだろう。
先日、この発見を上司に報告したところ、皆が口々に「怖い」とか「地縛霊」とか言い出した。
薄気味悪く思う気持ちも理解できなくはないけれど、まずはオカルト関係は放置して、衛生とか品質といった話をしたほうが(業務上は)建設的だと僕は考える。しかしそれを言い出すと理系の冷血漢眼鏡として認定され、職場での立ち位置が危うくなるので、老練な自分としては、まず分解清掃をして「ほらもうクリーンです問題ありません」と言うに留めた。髪はゴミ箱に捨てたし、部品はエタノール有機溶剤を駆使して清浄にした。
たぶんホラー映画だと、僕は2番めくらいに死ぬ。ゴミ箱からしゅるしゅると伸びた髪に絡みとられて「科学的にありえない」とか喚きながら、息絶える。眼鏡だって外れるかもしれない。
しかし僕は思うのだ。地縛霊が髪の毛を残したとして、特に実害もメッセージ性も無いのだから、それは普通の髪の毛として捨ててしまえば良い。本当に問題意識を抱えた地縛霊や怨霊だったら、ドライヤーの回転部分に髪の毛を絡ませるなんて馬鹿な方法はとらないだろう。だから安全。怖くない。

どちらかといえば、帰宅してからの「全国行脚中の庭師」のほうが怖い気がする。この辺り、人によってそれぞれなのだろう。
知人は「どちらも怖い」と言っていた。なるほど、と感心した。2択にする問題では無かったのだ。当たり前の事には、いつも後で気付く。

 

 

 

 

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蟲師 愛蔵版(1) (KCデラックス アフタヌーン)

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