カントリーロードの失敗作

名古屋にある有名な喫茶店「マウンテン」の甘いスパゲティーは、わりと美味しいと思う。美味しい、というと語弊があるかもしれない。食べながら怒ったり悲しんだりはしない、そういう意味では良い外食だと考えている。
例えば抹茶を練り込んだ太めのスパゲティーに、小倉餡と生クリームと缶詰のフルーツを盛った品(名前は忘れた)は、確かに残さずに食べるのは難しい量と味だが、でも決して不快ではないというか、ゲテモノでありながら一応は食べ物としての基準に達している。近くに行った際は必ず寄るし、せっかくだからひとつ食べてみよう、という気分にさせてくれる。個人的には「巷で言われているほどゲテモノではない」と思う。

「マウンテン」といえば、その抹茶やイチゴの色をしたスパゲティーが、駐車場で猫たち(店で飼われているのか、野良猫なのかはわからない)に与えられていて、そのほうが凄い光景だと思う。猫たちは一心不乱に食べていた。きっと名古屋の猫的にはご馳走なのだ。

 

 

カントリーロード」という喫茶店が、焼津市にある。
名前の通りカントリー調を意識したログハウスっぽい作りで、手書きの看板などに「店主の個性が滲み出る、突飛な喫茶店」ならではの雰囲気がある。港町の焼津市よりも、寂れた観光地のほうが似合う店だと常々思っている。
昔から、ちょっと変わったメニューが有名で、繁盛こそしていないが、長く続いている。大きなプリンが有名。安くもなく、でも豪華でもない、有り体にいえば垢抜けない喫茶店であり、なかなか行く機会が無い店だ。


この店にも「抹茶スパゲティー」があると聞き、行ってみることにした。
たまたま、昼ごろに焼津市にいて、これも甘党の神様のお導きだと思ったのだ。

しかしこの「抹茶スパ」は、特にスイーツには関係のない、アイデアメニューというにはあまりにも雑な、残念な代物だった。

作り方を想像してみた。

  1. スパゲティーを茹でる。
  2. フライパンに油を熱し、ごく少量の細切りベーコンを炒める。ニンニクや唐辛子は使わない。
  3. うっかりピーマンの細片が混入した気がするが、気にしない。
  4. 茹でたスパゲティーをフライパンに入れ、ざっと混ぜる。
  5. ほんの少しだけ塩を入れる。入れなかったかもしれないが、まあどうでもいい。
  6. 皿に盛り、抹茶をふりかける。
  7. できあがり!

まあ、こんな感じの品だった。
正確には抹茶ではなく、いわゆる粉末茶でもなく、単に電動ミルで粉にした緑茶を、ばさばさと振り入れ、ざっくりと混ぜただけ。
当然、苦い。緑茶の苦味は好きだが、ある量を過ぎると駄目なのだとわかる、そういう苦さ。「なるほどご当地グルメのアイデア料理に使われる緑茶粉末が味を感じさせない量なのは、つまりこういう事か」と納得させられる味だった。しかも塩気や他の味がほとんど無い。
基本的に苦手な味というものが無い僕でも、このスパゲティーはちょっときつかった。半分ほど食べたところで、不味さよりも飽きがきて、フォークが止まってしまった。

まずいことに、同行者も同じメニューを頼んでいた。2人で励まし合いながら、残りを平らげる。
「大丈夫、俺達はサイボーグだ」
「そうだサイボーグだ。苦味センサーからの入力をカットすれば問題ない」
「感覚野から苦味情報をマスクしろ」
「これは無害だと意識するんだ、情報のシャットダウンだ」
「きついな」
「いつだって俺達の戦いはきついさ」
「そうだったな、戦友」
そんな言葉をつぶやきながら、とにかくもぐもぐと食べ進んでいく。

言うまでもないことだが、こういう外食は望ましくない。いつの間にか反省会モードになったのは、必然だといえよう。

 

食べながら思い出す。そういえば、この店は昔からこんな感じだった、と。
大昔に、パフェの種類と量が競われた時代があった。ごく短期間の、浮わついた流行。その時にこの店は、パフェのメニューを増やした。ぱっと見は面白いけれど、実のところ「なんだ、材料の順列組み合わせじゃないか」という感じのラインナップだった。地域の情報誌では話題になったけれど、でも行ってみるとがっかり、そんな話を覚えている。

この店はたぶん「店主の(かなり奇矯な)情熱がメニューの形で噴出したオモシロ喫茶店」のふりをした、実のところは単なる「テレビのバラエティー番組あたりで仕入れた情報を、ただ雑にメニューに組み込んだ喫茶店」なのだろう。だからここまで不味くできる。
いや不味くてもいいのだ。ネタとしての食事なら、それはそれでかまわない。それも1つの体験であり、店と客との対話だ。でもそこには、店主の創意工夫が感じられなければつまらない。「こういうの売れるんじゃないの?」みたいな安直さが感じられる品では駄目なのだ。つまらないネタは、凡庸よりも質が悪い。

ちなみにコーヒーはコーヒー味でした。特筆すべきことは無し。
同行者が注文したワッフルは「そうか最近はワッフルがブームか。ならばうちでも」と、家庭用のワッフルメーカーを導入し、市販のミックス粉を使ったような、実につまらない品だった、とのこと。「今の時代に食べる必要性を微塵も感じない」という、厳しい評価だった。

そのうち、「香辛料を入れたココア」あたりを導入するのではないか、と推測している。それもまた雑に、業務用の甘くて安いインスタントココアに、厨房にある鷹の爪を放り込んだだけの品になりそうな、そんな予感がする。きちんと作れば、本当に美味しいのだけれど、そして美味しく作る情報はいくらでも手に入る時代にそれができないのならば、怠惰の誹りを受けても仕方がない、と僕は考える。

無茶苦茶でも奇矯でもかまわない、ただし雑なのは困る。せめて看板に「持ち味は怠惰と粗雑さです」と書いていてほしい、そう思った昼食だった。

 

 

 

口直し、というわけではないけれど、帰りに購入した「Patisserie AO」のモンブランは実に美味しかった。
チョコレートでコーティングしたメレンゲと、小さな輪切りのロールケーキ。その上に和栗が1粒、そしてたっぷりのマロンクリーム。甘さが控えめな、でもこってりした生クリームが間を埋める。小ぶりで、こんもりと高く、丁寧な作り。
うっかり写真を撮り忘れた。可愛らしさという点では、この地域随一のモンブランだと思う。

 

 

 

岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ


ところで今日は、書店で岡崎京子の新刊を見かけた。
新刊といっても新作では無い、と思う。
復刊か、過去作を再録し、編集した短篇集だろう。
しかしなぜ、岡崎京子が「コミックエッセイ」コーナーに積んであるのだ。場違いにも程がある、と思う。かつて岡崎京子を愛好した人達が、今現在はゆるふわコミックエッセイを読んでいる、のだろうか。よくわからない。

 

岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ

岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ

 
オカザキ・ジャーナル

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