パイナポー・パンケーキ

ホットケーキとコーヒーと読書の時間を過ごすつもりで、いつもの「つきさむ」に行ったところ、今日は14時に閉店すると貼り紙があった。なのでコーヒーだけを楽しみ、14時前に店を出た。コーヒーはとても美味しく、店内は暖かく、ホットケーキは食べられなかったけれども、これはこれで満足。

 

さて、と駐車場で考える。何か食べたい。ホットケーキ的な何か。
しかし「つきさむ」の周辺は辺鄙というか、あまり心躍る店が無い。
こういう時にはスマートフォンに頼るのが正しい現代人だろう。具体的には「食べログ」のアプリで、「パンケーキ・ホットケーキ」をキーワードとする近隣の飲食店を検索した。

 

その「食べログ」にて提示され、2件の絶賛レビューが書かれた店に行ってきた。
「つきさむ」からは、車ならあっという間の距離。

見た目は、田舎の垢抜けないスナック兼喫茶店。いちおう「パンケーキ専門店」とは書かれているが、いわゆる世間一般の「パンケーキ・カフェ」からは程遠い外観をしている。

少し迷ったが、とにかく店に入ってみる。
店内は雑然としている。入った瞬間に「あっ駄目だ」と思ったけれど、普通は(少なくとも僕は)いったんドアを開けたら、「やっぱりいいです」と引き返せない。

雑然具合は、きれいな言葉で表現すると「実家みたい」。別に僕の祖父母や父母の家が雑然としている訳じゃなくて、年寄りの家に特有の「木彫りの熊から孫の絵そして相田みつをのカレンダーまで無頓着に飾り立てる」感じが、まるで誰かの家の実家のような感じなのだ。

散らかった店、というと「基地外じみた人が営む、自己表現が止まらない、ポエムと警句に溢れた店」が多いが、そういう感じではない。
ただ、コンビニやゲームセンターにありそうなガンダムエヴァンゲリオンのフィギュアやボトルキャップフィギュアなど、「冴えないおっさん系アイテム」も飾ってあって、単なる年寄りの店ではなさそう。「アナと雪の女王」の切り抜きが壁にピン止めされていたりと、少し前の流行も装飾には加えられている。
視線を動かすたびに「あっ駄目だ」という想いは止まらない。

メニューには10種類くらいのパンケーキが並ぶ。青白く暗い写真に手描きの説明。なぜか「クリスマス・スペシャルパンケーキ」が「オススメ」とされている。
コーヒーはブレンドとアメリカン、それにハワイコナやブルーマウンテンなどの銘柄が5種類ほど。カウンターには豆の入った小さな瓶が飾られていて、後ろには挽いた豆が入ったビニール袋や器具が乱雑に置いてある(あっ駄目だ)。
メニューには、トクホの健康茶がある。どんな茶なのかは、カウンターの下にあるダンボール箱を見ればわかる(ペットボトル入りの健康茶を箱買いしたと推測)。

「かつては近所のパチンコ客などでそれなりに賑わっていた、こぢんまりとした喫茶店。息子が店主夫妻から店を継いで数年経つ。現店主には喫茶店への理想や目標が有るわけでもなく、ただテレビやネットの情報を元にメニューを追加し、今は『パンケーキ専門店』の看板を掲げ、客が増えるのを待っている。先日からコーヒー豆の種類を増やした。なにしろ特別な思い入れがあって継いだ店ではないから、例えば有名店に行って学ぶほどの手間暇はかけず、こんなものだろうと考えるのみ」

そんなストーリーが即座に想像できてしまう店は、日曜日の午後には相応しくないと僕は思う。
しかしせっかくだから、パンケーキを食べてみる。
もうどうにでもなれ、という気分で、壁に貼られた「パイナポー」なる新メニューを注文。
「ブレンドコーヒーと、この『パイナポー・パンケーキ』をください」と伝えたところ、「はい、パイナップルですね」と言われてしまった。釈然としない。

 

http://instagram.com/p/x_BMoamMSB/

パンケーキは、格別に不味いというわけではない、そして「見た目だけ取り繕いました」という感じすらもない、なんとも残念な品だった。

説明が難しいが、料理を習慣としていない男友達(甘いもの全般に興味が無い)が作ったパンケーキが、町内会のバザーで売られているようなガラス皿に盛ってある状態、と言えば良いだろうか。
「これ、お金を取って食べさせたら怒るよなあ」と思わせるクオリティ。そういえば自分はお金を払って食べさせられているのだという事実には後で気付く、そして怒りよりも諦念が意識を覆う、そういう種類のパンケーキは、なかなか他では食べられないだろう。

コーヒーは普通。覚えていない。たぶんコーヒーに興味が無い男友達が淹れたコーヒーの味がしたのだと思う。

総括すると、垢抜けない店で、冴えないパンケーキと印象の薄いコーヒーを喫食した、ということで間違いない。

 

パンケーキを待っている時に、カップルらしき男女が来た。「あっ駄目だ」という顔をして、繋いだ手を握りなおして、力強く「あ、やっぱりいいです」と宣言し、去っていった。賢明だと思う。なんとなく、彼らが「勝ち組」で、自分は「負け組」に思えてくる。

 

隣の席にいた「カフェ巡りが趣味です。静岡県中部の有名店はほとんど行き尽くしたので、最近は郊外にある店を攻略中。パンケーキの食べ比べが主目的かな?」という感じの女子2名は、最初は不審げにひそひそと話し合っていたけれど、食べ終える頃には苦笑混じり、そして店を出てからは「静岡・カフェ文化の最果て」についての嘆きを隠さずに話していて、なんだか気の毒に思う。
「お嬢様方、このたびはご愁傷様でございました。小生も深く共感する次第であります。そして、このような嘆かわしい事態になったこと、甘党の先達を自認する私としては、恥じ入るばかり。いや、文化の礎を築けなかった我々世代の問題として、本当に申し訳なく思っておるのです。
お詫びには到底至りませんが、もしお時間があるようでしたら、この老人の“口直し”にお付き合いいただけませんか。甘党談義の弾む、良い店が近くにあります。スイーツの失敗はスイーツで挽回、それが甘党の挟持でございますゆえ。もちろんお代は当方で」といった風に声をかけたくなったけれど、でも残念ながら近くに良い店は皆無で(だから『食べログ』に頼ったのだ)、おまけに財布の中には600円くらいしか残っていないので(銀行に行きそびれたのだ)、そういう流れにはならない。

そんな訳で、もうあの店には二度と行かない。
支払いの際に「近日中にポイントカード制度を導入する。その時にこのレシートを持参すればポイントを付与する」と説明を受けた。ポイントカード以前の問題が山積みだと思う。

本日の教訓。

  • 食べログは信用しない。
  • 外観が駄目な店に「せっかくここまで来たんだし、他に店も無いし」なんて理由で入らない。デイリーポータルZ的なオモシロ展開は発生しない。
  • 直感と経験で「あっ駄目だな」と感じた場合は「でもまさかそんなに酷いことにはならないだろう。専門店を名乗っているし、意外といけるんじゃないか」などと妙な理屈で自分を説得しないで、コーヒー1杯で諦める。
  • 奇跡は稀だから奇跡であり、自分は世界の主人公ではない。
  • 田舎は怖い。
  • 神は死んだ。

 

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図書館奇譚

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