ガトー・ショコラと期日前投票と、啓蒙の栞。

家でうだうだとしていたら、おやつの時刻になってしまった。
折角の土曜日に、ずっと家にいるのもつまらない。だから少しだけ外出した。

いつもより遅めの時間に、「つきさむ」でコーヒーを飲んだ。

今日はガトー・ショコラを選んだ。
ガトー・ショコラにも色々あって、この店の品は、かなり簡素だと思う。簡素というと語弊があるが、リッチというよりはリーンな感じ、だろうか。しかしそれでも貧相にならないところは、チョコレートという素材の偉大さか、あるいは作る人の腕前か。
「素敵なものを食べている」感が存分に楽しめる、冬の小さな贅沢といえる。

こまごまとした買い物を済ませた後に、期日前投票に行ってきた。
期日前投票の良いところは、会場が1箇所に限られない点。市役所とその支所で投票できる。混雑が無いところも利点に挙げられる。

というか、投票日にだって、市内の全ての会場で受けつけて欲しい。僕の場合、基本的には公民館が指定されているのだけれど、それほど近くは無いうえに、駐車場が混む。自分の動線（？）からすると、もっと行きやすい投票所があるし、例えば街に行った帰りに寄るならば、また別の投票所が使いやすい。
管理が難しくなるのかもしれないけれど、選挙があと少し便利になるだけで、投票率はずいぶん変わるような気がする。

選挙といえば、前々から気になっている不思議なものがある。これは僕の住んでいる土地だけの習慣かもしれない。
投票所に入り、受付をして、投票をする（立会人の老人が、ぼうっと見ている前を歩く）。その出口あたりに、特製の「栞」が積んであるのだ。
積まれた栞の前には「ご自由にお持ち帰り下さい」と張り紙がある。いわゆる「投票済証」では無い。「投票済証」は、別に置いてある。
今日の栞は、街のシンボル的な花と公園の写真が配されていて「明るい選挙」などと書かれていた。公園の写真には不自然に富士山が合成されているが（あの場所からは富士山はほとんど見えないし、花の季節と冠雪具合も整合しない）、それは静岡県中部ではよくある事なので言及しない。静岡県中部の人間は、富士山の風景写真が大好きで（自分たちの財産だと思っているのかもしれない）何であれ霊峰富士を添えてしまう習性がある。余談だが三重県四日市では蛍が信仰の対象になっていて、化学コンビナートの夜景画像にも蛍を添えてしまう事は、よく知られている。
ともかく、あの立派な栞（きちんと栞紐が結ばれている）は、何なのだろうか。

ほとんどの人は持ち帰らないし、もちろん僕も同じ。たぶん記念品であり、それ以上に、明るい選挙を推進するためのPR品としての役割があるのだと推測する。
しかし僕は思うのだ。僅かな有権者が栞を持ち帰り、その栞（素敵なデザイン）を見て、使って、日常生活の中で、より良い民主政治への意識を涵養する。素晴らしいシナリオだ。でも、税金の使い道としては効率が悪すぎないか。
せめて数を20％程度にして、ポケットティッシュにしたほうが効果がありそうな気がする。

コレクターの可能性を思いついたが（あえて検索しない）、もちろん僕達は少数の収集家のために納税しているわけではない。もしかすると栞は善良な有志の寄付によるものかもしれないけれど、でもやっぱり「これは無駄ですね」と言いたい。

この栞、あくまで"なんとなく”の印象でしかないが、『汚職とまではいかないまでも地元経済の一部に組み込まれていて（例えば特定の印刷屋が自動的に請け負うとか）、しかし規模が小さく、目立った害が無いうえに頻度が少ない為に、目くじらを立てる人もほとんどいない、毒にも薬にもならない慣例』の匂いがする。

交通安全運動期間の朝に旗を持って（自主的に、無給で）立っている市役所職員や会社員、製造業において全員に提出ノルマが課せられるスローガン、居れば楽しいかもしれないが地域振興には力不足のゆるキャラ。挙げればきりがない。誰もが苦笑と小さな不満を抱えながら継続している、その社会の常識。

こういう極小規模の無駄遣いは、社会を（極小規模ではあるけれど）消耗させているような気がする。自分としては「対象が他人、しかも大勢となると、それぞれが有限の時間と資源しか持っていないことを忘れてしまう人や組織」からは、可能な限り遠ざかりたいものだけれど、なかなか現実には難しい。

要は、栞が必要な人は必要なだけ注文して、買えば良いのだ。啓蒙したい人は、効果があるのか、きちんと考える。山積みにする意味は、ほぼ無い。

すべての男は消耗品である。VOL.13: 2012年5月?2013年9月 大いなる幻影