通勤途上のお相撲さん

2ヶ月にわたる試行錯誤を経て、ようやく通勤ルートが定まってきた。定まった、というよりも「どこを通っても同じ」ことが判明した。そんな事は早々にわかっていたのだけれど、できるだけ短時間に、楽に通勤できる道が無いものかと、つい試してしまうのだ。それなりに長い通勤路なので、あまり創意工夫の余地がない。結局、いちばん広い道を、愚直に(ちょっとした渋滞に参加しながら)走り続けるのが最も安全で、運転も楽。無理をしてスピードを出しても、あるいは抜け道を使っても、所要時間は5分と変わらない。

 

その長い通勤時間、特に朝の出勤時には、ほぼ同じ地点で、同じ人を見かける。学生や児童となると数が多くて把握できないが、例えば格好良い小径自転車に乗っているお洒落な若者などは、もはや日常の確認事項となっている。彼とすれ違うのが遅い時は、たぶん僕が遅れている。たまに見かけないと、ほんの少しだけ気になる。
ちなみに、このお洒落自転車(Bianchi)の男子、9月初旬には鋭角的なサングラスとヘルメットとサイクリング用ハーフパンツにタイツ、そして蛍光色の高そうなスニーカーだったのだが、最近はユニクロっぽい無難な格好になった。しかし唐突に、クラシカルなジャケットと丈の短いパンツ、アーガイルソックスのような英国風な時もあって、油断がならない。

 

朝によく見かける人といえば、いつも早朝の交差点にぼんやり立っている相撲取り風の男が、なんとなく気になっていた。頭は髷こそ結っていないものの、てかてかのオールバックで、もちろん太っている。基本的に浴衣、たまにスウェットシャツの時もあるが、それもまた相撲取りらしく見えるのだ。
相撲部屋も無い、もちろん地方巡業も無いのに、何故この力士はぼんやり早朝から立っているのだろう、と常々不思議に思っていた。今日、同じ道を通る人と話す機会があって、試しに聞いてみたところ、彼はいわゆる「町の、ちょっとおかしな人」とのことだった。別に悪い人では無く、朝にお相撲さんの扮装をする以外は普通らしい。仕事もしている。
そうか、彼は相撲取りではなかったのか、良かった良かった、と納得して、それでもう一件落着、という訳にもいかない。新しい疑問、「なぜ相撲取りなのか?」とは、これから毎朝、向き合っていかねばならない。
これから寒くなる。あの偽力士さんは、風邪などひかないのだろうか。

 

 

脳のなかの幽霊 (角川文庫)

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