だから最後は、笑ってお別れ。

 新しい勤め先では、人事異動や転属で人がいなくなる時に、かなりしっかりとした集会っぽいことを行う。関係部署の人間が広い部屋にずらりと集まり、直属の上司が司会をして、激励の言葉、お別れの挨拶、今までの業績などが語られる。記念撮影なども行う。

 こういう職場は久しぶり。今まで働いてきたところでは、決まった時刻に関係者だけ集まって、簡単に挨拶というかスピーチをして、記念品や花束を渡して、といった感じだった。去る人が関係者のところを巡って挨拶だけ、というところも多かった。

 だから馴染めない、という事は全然無い。区切りにきちんとセレモニーを行う職場があっても良いと思う。ただ、ひとつ気になるところがある。

 去っていく人に対して、“語りかけ口調”での「感謝の言葉」を伝えるのだ。“語りかけ口調”というのは、つまりは「結婚披露宴で親に向けて読み上げる手紙」みたいなもの。
 なぜか、この役目は女性社員が担っている。女性がいない部署では、最も関わりのある女性社員(大抵は総務系の人)の役割となっているようだ。

 テンプレートがある訳ではないだろうけれど、概ねこんな感じ。
「タカシロさん、今まで本当にありがとう…。ううん、タカシロさん、なんて他人行儀は嫌だから、いつもどおりタカちゃんって言うね。タカちゃんが明日からいなくなるなんて、まだ信じられないよ。本当は嫌だよ、タカちゃん。でも新しい職場でも、タカちゃんはタカちゃんスマイルで(略)だから最後は笑ってお別れだよ。駐車場や社員食堂で会ったら声をかけてね。今までもこれからも、いつだって〇〇課の仲間だってこと忘れないで。それが最後の業務命令だよ」
 同じ敷地内の、別の部署に異動する若手社員であるタカシロ君の場合で、これである。若いうちにいくつかの職場を回るのが通例だから、別にそれほど悲しい話では無いのだけれど(実際、泣いている人など皆無だ)、とにかくこういう感じのスピーチをした後に、握手をしてにっこり笑ったところを写真撮影して、「同僚からの挨拶」は完了する。
 基本的に、文章は紙に書いたものを読み上げる。フォーマットはA4横に縦書き。棒読みの人も、きちんと「タメ」や「感情表現」を駆使する人もいる。

 

 普段は、それほど情感的とはいえない「理系っぽい」職場なのだが、この時だけ妙な感じなのだ。これが地位の高い人の定年退職なんて状況だと、さらに凄い。ちなみに、研究所長とか工場長レベルだと、さらに「現場一筋・事業所の生き字引である“おやっさん”による、ざっくばらんなトーク」が加わるらしい。

 なにしろ自分は試用期間中の身なので黙っているけれど、でもやっぱりむずむずする。
 そして今月は、人事異動が沢山ある。今日など4人がまとめて出向や異動で去っていった。だから、この種のスピーチを4回も聞くことになった。人それぞれだとは思うけれど、僕はとにかく苦手だ。ちなみに、入ってくる人達には、特にこういったものは無い。

 

 そういえば、昔は結婚式でも、親に手紙なんて読まなかったような気がする。少なくとも今のように、それが当たり前では無かった。いつ頃から変わったのだろう。

 

 

もらい泣き

もらい泣き

 

 

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